賃金のジェンダー格差:日本と米国の現状(2)「まず、法制定も重要」

米国 2009年公民権法により「男女間の賃金格差を禁止」 VS.

日本 2021年同一労働同一賃金ガイドラインにより「正社員と非正規雇用労働者との間での待遇格差解消を目指す」

日本と米国、賃金におけるジェンダー平等への取組み(法制定)

女性<男性 日本の格差25.7% 米国の格差18%

前回の賃金のジェンダー格差(1)のコラムにおいて、日本と米国の現状は、上記の数字の通り、「日本における賃金のジェンダー格差問題は米国と比較してより深刻である」、とお伝えしました。

日本の賃金のジェンダー格差問題への取組が大変遅れているのは、法制定を見ても明らかです。

1)雇用の平等に係る法制定比較(日本と米国)

まず、雇用の平等(雇用差別禁止)に目を向けてみれば、米国は1964年公民権法タイトルVII(セブン)で法制定がなされました。

・人種、肌の色、宗教、性別、または国籍に基づいて、雇用(すなわち、雇用、昇進、賃金およびその他の報酬慣行、労働条件、および解雇)のあらゆる面での差別を禁止する。

・セクシャルハラスメントなどの職場でのハラスメントを禁止する。

・妊娠、出産、またはそれに関連する条件による差別を禁止する。

・トレーニングプログラムへの参加機会を均等に提供し、全従業員に昇進の機会を均等に与える。

・違法な雇用慣行を最小限に抑えるためにEEOCを設立。

・組織内苦情を登録したり、EEOCに苦情を提出したり、違法な差別の調査に参加したりした従業員に対して、雇用主が報復することを禁止する

・従業員数が15人以上の個人事業主、組合、州政府、地方自治体、教育機関に適用される;また、従業員数に関わらず、人財紹介会社にも適用される

   (SHRMエッセンシャルズプログラム、教科書より抜粋 Copyright@SHRM)

翻って、日本における同等の法制定は、1986年「男女雇用機会均等法」です。

なんと米国より遅れること22年

米国の1964年公民権法タイトルVIIはその後も時代のニーズと共に雇用の平等の実現に向けての改正をおこなっており、例えば、1978年には妊娠差別禁止法や、最近では、2020年にLGBT への職場における差別禁止について追加しています。

(参考資料:https://www.shrm.org/about-shrm/press-room/press-releases/pages/shrm-statement-on-united-states-supreme-court-ruling-extending-title-vii-of-the-civil-rights-act-of-1964-to-lgbtq-status-.aspx)

2)賃金の平等に係る法制定比較(日本と米国)

2009年「リリー・レッドベター公正賃金法」により米国では1964年公民権法タイトルVIIが改正されています。

日本では、かろうじて、2021年より、「同一労働同一賃金ガイドライン」(法律ではない)が全面的に適用されているのみであり、法制定の遅れは深刻な問題であります。また、この「同一労働同一賃金ガイドライン」ですが、厚生労働省では、本ガイドラインは、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものです、としており、正社員と非正規雇用労働者との間での待遇格差解消を目指すものであります。としています。

(参考資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.htm

これは、日本における雇用慣行に基づいて、長年形成された問題の是正を目指しているものと言えます。その雇用慣行とは、「新卒一括採用」「終身雇用」そして、「定期配置転換」により優秀な社員を職務の専門家ではなく、会社の専門家に育て上げるという制度です。

社員は概ね3〜5年で他部署へ移動していくため、各部署におけるノウハウの蓄積は必然的に希釈になります。それを補っているのが、長年部署に定着している非正規雇用者(多くは派遣労働者)となっている現実です。そして派遣労働者の賃金は非常に低く抑えられています。私が実際派遣業に携わっていたのは、30年以上前ですが、その後の外資系に勤務していた20年間、派遣社員を雇っていましたが、どの分野における派遣労働者でも、30年前と派遣料に変化がないことに、驚きを持っていました。それは、各分野で専門性があり、ビジネス英語を使える人材、例えば、英文会計業務(会計という専門性と英語)であっても同じであることには大いなる驚きと疑問を持っていました。この問題を是正することも大変意義のあることでありますが、このガイドラインが日本における賃金の平等(ジェンダーギャップの解消)に与える影響はほぼないと言っていいでしょう。

(注:外資系では、ルーチンワークは派遣もしくは海外のシェアードサービスセンターに集約する人事戦略をとっていました。つまりジョブグレードの一番低い仕事に正社員は配置しない。しかしながら、優秀な派遣人財はフルタイムに登用しジョブグレードを上げるなど、職務へのコンピテンシーに基づく評価も同時に行なっていました)

結論から言いますと、日本では、賃金のジェンダー格差解消に対してまだ未着手の状態である言っても過言ではありません。現在2022年も終わろうとしています。賃金のジェンダー格差禁止にかかる法制定の遅れを見ても明らかですが(*)、日本は米国より既に13年遅れをとっており、今後この遅れはさらに年数を重ねていきます。

(*)労働基準法第四条「男女同一賃金の原則」についてはその存在価値を認めるものの、「女性であることのみを理由として」あるいは「社会通念としてまたはその事業場において、女性労働者が一般的または平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者はないことなどを理由とすること」を意味します。とされており、また判例集などを参照しても、同等のコンピテンシー、職務責任範囲(同一労働同一賃金)に従事している場合の賃金におけるジェンダー格差を禁止しているものではないと解釈しております。

(参考資料:https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osakaroudoukyoku/H24/kijyun/man_woman.pdf

3)法制定はドライバーにはなるが完全な解決策とはならない

米国では、2009年に「リリー・レッドベター公正賃金法」制定され、賃金のジェンダー格差は18%に縮まってきていますが、前回引用した男女の賃金格差の分析のレポートには以下のような解説も記載されています。

「男女の賃金格差の分析は、男女の賃金格差の原因が体系的であり、女性の仕事と男性の仕事の価値、および女性が適している仕事の種類について人々が持っている認識(意識的または無意識的)、つまりバイアスから生じることを示しています。これらの認識は、女性が働く必要がない、または女性の仕事が育児、家事、養育に関連するべきであるという仮定に基づいて、女性が低賃金の地位に投入されることにつながります。また、「女性の仕事」として指定された仕事は、男性がそういった職業に就かない限り、価値が低いと認識されることも注目に値します。例えば、「コンピュータ」に関わる仕事は初め女性が主に従事していました。その分野に男性が進出するまでは低賃金の職種でした。逆に、以前は男性が支配していた分野に女性が参入すると、それらの職種で賃金が下がるといった現象が起こっています。例えば、アミューズメントパークやレクリエーション、デザインなどです。

日本より遥かに先を言っている米国の「ジェンダー間の賃金格差解消」ですが、世界全体を見渡すと、その米国であってもこの分野においては「後進国」の位置付けです。

OECDの調査によると米国、日本は最下位の一部であり、最もジェンダー格差が少ない国はブルガリア共和国となっています。

(参考資料:https://data.oecd.org/earnwage/gender-wage-gap.htm

4)賃金のジェンダー格差解消に向けて、それでも未来は明るい

先にご紹介したOECDの調査において世界で最も賃金のジェンダー格差が小さい国、「ブルガリア共和国」ですが、不思議なご縁で、先日私は、駐日ブルガリア共和国特命全権大使を訪問し、個別に対談させていただきました。「ブルガリアでは、特にSTEM分野(サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・数学)において女性の活躍が顕著で職場での男女格差もほとんど見られません。来年はブルガリアからSTEM分野で活躍する女性エグゼクティブを日本に招待して 日本の女性エグゼクティブとのラウンドテーブルを企画しています。華園さんも是非、ラウンドテーブルに参加してください。」と大使からお話がありました。

「職場における男女平等が実現している背景にあるものとは何ですか?ブルガリアの文化、歴史、教育、何が影響していますか?」と私がお尋ねすると、「その全てです。過去において長きに渡り社会主義国の時代があり、家族の生活の糧を一人で賄うことは不可能であったので、女性も働き手として、男性と同様フルタイムで働く必要があったことも特筆すべきことではあります。」とおっしゃっていました。

今の日本を見てください。「社会背景的必然性、教育、時代」全てにおいて女性の活躍なくしては国力低下、企業の人材不足、家庭経済の困窮を招く状況となっています。

あらゆるバイスを排除し、経営の足枷となるような人事制度の刷新を経営者と人事が協力してリードしていく必要があります。また日本政府も賃金におけるジェンダー差別を禁止する法制定を急ぐべきでしょう。

また、日本で一般的に呼ばれている「ジョブ型」(正式にはジョブ評価のおけるジョブランキング手法)の導入が日本で進んでいることも賃金のジェンダー格差解消の一助になるでしょう。特に、新卒採用から「ジョブ別採用」の要素を加味することで、人事評価がより「専門性」と「KSA(知識・スキル・能力)」に基づくものとなり、昇進・昇格についても年功序列ではなく、「個人・組織のゴール達成度」並びに「個人の成長度合い」による評価によるものとなります。更に、評価者によるバイアスの排除を徹底することにより、ジェンダーによる差別・区別が必然的に是正されていくと考えます。

HRAIでは、駐日ブルガリア共和国特命全権大使を2023年11月8日〜10日に開催する「SHRMJP23グローバル人事コンフェレンスin東京」に、ゲストスピーカー、パネリストとしてご招待いたします。

ブルガリアの女性活躍、STEM教育について是非会場で大使から直接お聞きください。

(写真:左から、HRAI代表理事 華園 ふみ江、マリエタ・アラバジェヴァ駐日ブルガリア共和国特命全権大使)

※2023年1月より、早期割引の参加費にてコンフェレンス、ワークショップ、晩餐会への参加募集が始まります。募集告知は準備出来次第、HPなどにて発表いたします。

参加についてのお問い合わせはメールアドレス:info@hr-ai.orgまで

コラム執筆後記〜日本の未来だって明るい〜

賃金のジェンダー格差:日本と米国の現状(1)(2)をお読みいただきありがとうございました。コラム執筆は楽しいながらも、毎回苦痛も伴います。今回は特にコラムの内容に2カ月に渡り頭を悩ませ続け、やっと筆をとったのは、12月4日(日)となりました。12月2日、3日とリゾートホテルで羽を伸ばした後の執筆となりましたが、ホテル滞在中に、「よ〜し、楽しんだから、明日は賃金のジェンダー平等についてのコラム〜書くぞ〜!」と自分に宣言していた私の声を聞いた、一緒に滞在していた、私立女子校の小学校に通う理奈ちゃん。お母さんに「ジェンダー平等ってなに?」と直ぐに聞いていました。そして「ジェンダー平等の手書きのポスター、学校にはってあるよ!」と教えてくれました。「おおお〜それはすごいね、日本の未来は明るいね!」と喜んだ私でした。

これから社会に出てくる世代は「ジェンダー格差」「LGBTQ」に留まらず広く「人権」において知識も厚く、意識も非常に高いです。それに反して組織に所属している層は年代が上がれば上がるほど、「ジェンダー格差」「LGBTQ」など「職場における人権と平等」に対しての知識や意識がアップデートされていない傾向があります。ジョブ型導入、新卒におけるジョブ別採用が進むほどに、受け入れる側(既に組織内にいる人財)への意識改革(「ジェンダー格差」「LGBTQ」など「職場における人権と平等」)の教育強化と徹底、公正な人事施策の推進が組織力強化には益々欠かせなくなってきます。

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華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

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