日本企業に向けて〜「ジョブ型からスキル型へ:世代ごとに変わるキャリア設計とスキル教育のポイント」
世界の潮流 ― ジョブからスキルへ
「ジョブ型」という人事制度はグローバルでは存在せず、どのような人事制度を採用していても「ジョブ」がベースになっていること。そして世界の人事潮流は、ジョブ中心からスキル重視へ進化していることは前回のコラムで解説をしました。
Unilever や IBM、Novartis といったグローバルの先進企業は、社員の持つスキルやケイパビリティを起点にキャリア、配置、報酬を再設計し始めています。
また採用の現場では「学歴不問」「スキル重視」が急速に浸透しており、“何ができるか”が人財の評価の中心になっています。
さらに教育面に目を向けると、グローバルでは多くの国がキャリア志向の教育制度を採用しています。学生時代に将来のキャリアをある程度決め、そのために必要な知識やスキルを大学や専門教育で習得して社会に出るのが一般的です。
たとえばデンマークでは、高等学校の段階からキャリア志向の教育が導入され、学びと職業選択が直結しています。
こうした人財と競争する中で、日本企業が従来の「入社後に幅広く経験を積ませる育成」だけに依存するのは、もはや優位性を維持するのが難しくなりつつあります。

日本企業が直面する課題
ジョブ型への移行が急速に広まる中、多くの日本企業はさまざまな課題に直面しています。
特に難しいのは、社員の意向だけを重視して目標設定や配置異動を行ってしまうケースです。個人の希望を尊重することは重要ですが、組織の戦略と切り離された人事施策は、結果的にキャリア形成にも企業成果にもつながりません。
だからこそ今求められるのは、個人のキャリア志向と組織の思惑のバランスをどう取るかという視点です。
この二つの輪が重なり合う部分――いわば人財開発の Sweet Spot を見出し、そこに教育と成長機会を集中させることが不可欠です。そしてスキル教育やリカレント教育を人事評価と連動させることで、組織と個人双方にとって納得感のあるキャリア形成が実現します。

年代別に考えるスキル教育とリカレント教育の活用
20代:キャリアの出発点
- 自己の強みを模索する決断期
- 組織はクロススキル教育(幅を広げる)とアップスキル教育(深める)で支援
- リカレント教育はまだ必須ではないが、「学び直しの重要性」を意識づける導入期
30代:強みと弱みの見極め
- 実績を分析し、強みを伸ばし弱みを補うリスキルを支援
- リカレント教育が最も効果を発揮する年代。学び直しを即実務に還元できる
40代:専門性と汎用性の統合
- 経験を専門性に統合し、キャリアの「核」を確立
- デジタル・AIなど新領域でのリスキル教育が必要
- エグゼクティブ研修、リーダーシップ開発、組織開発プログラムなどが現実的で効果的
- グローバルな視野を広げるための多様な交流やグローバルマネジメント研修も有効
50代以降:知識と経験の伝承
- 後進への指導や教育を通じて知識を体系化
- セカンドキャリアを見据えたリカレント教育が不可欠
- 学び直しが「次のキャリア」への橋渡しとなる

結びに ― グローバル競争で日本企業が優位性を持つために
スキル型への移行で最も重要なのは、人財開発を人事評価と連動させることです。これによって、組織と個人の双方が納得する持続可能なキャリア形成につながります。
グローバルでは学生時代からキャリア志向で教育を受けた人財が社会に出ています。だからこそ日本企業は、入社後のスキル教育を充実させ、キャリアの「Sweet Spot」を組織と個人の間に創り出す仕組みを持つことが重要です。
さらに、日本型人事の強みである協働性や長期的育成文化をスキル型の仕組みと融合させれば、熾烈化するグローバル競争の中で日本企業が独自の優位性を発揮できるでしょう。
コラム筆者の著書
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華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表