ジョブ型2023〜日本と世界のジョブ型の今 - 人事資格認定機構-HRAI-

2023/03/06

ジョブ型2023〜日本と世界のジョブ型の今

ここ数年で、大手企業を中心として「ジョブ型」の導入が行われている。

経済産業省が令和4年1月発表した資料https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/002_03_00.pdf によると、12.6%の経団連企業が「ジョブ型」を導入済みとなっている。

 

 

 

「ジョブ型」は日本で作られた造語

まず、重要なことは「ジョブ型」という名称は、日本における造語であって、日本以外の国で「ジョブ型」という言葉、そして概念は通じない。また、大手人事コンサルティング会社が「Job-based」という英訳表現をしており、いかにも世界で通用する言葉のように紹介しているが、これも英語であっても日本以外では言葉の意味や概念は通じないので、グローバルで仕事をしている人は注意が必要である。

 

では、日本で俗称として広まっている「ジョブ型」というのはなんであるのか?

 

「職務等級制度」アメリカでも採用されている

日本的な「職務等級制度」VS.アメリカ的な「ジョブ型」のような理解が日本では広まっている様であるが、「職務等級制度」の「ジョブ型」もアメリカの企業では「ジョブ評価」の代表的な手法として採用されている。

 

ここで、キーワードは「ジョブ評価」である。

 

一人一人の仕事=ジョブをどの様に組織の中で評価するか、そのベースとなるのが、職務によるのか(部長、課長で同一ランクとする)、それとも一つ一つのジョブの評価を決めていくのか(部長職であっても同一ランクとはならない)。

 

「ジョブ型」と日本で言われているのは、後者の一つ一つのジョブの評価を決めていく(部長職であっても同一ランクとはならない)、ジョブランキングというジョブ評価の手法のことである

 

このジョブランキングの手法を用いている企業が海外ではより多く、これまで日本ではほとんどなかった。この点が日本ではあまり理解されていない。

 

ジョブ型とイノベーションの関連性

製造業が経済の中心であった1970年代では、アメリカでもより多くの企業が「職務等級制度」を採用していたが、経済の主流がイノベーション産業に移行していった過程でアメリカではジョブランキングが一般的となり、それによって日本では「ジョブ型」はアメリカのものというイメージが定着していると言える。

 

翻って日本を見れば「失われた30年」と言われる期間、アメリカだけでなく、全世界の経済が製造からイノベーションにシフトしている中、製造業により適している「職務等級制度」から「ジョブランキング」へのシフトが遅れた。

人事制度の遅れは、同時にイノベーションビジネスの遅れにも連動していると言えるのではないか。

 

世界でもジョブディスクリプション(JD)がより重要に

アメリカや多くの国でもJDの重要性は今日特に言われている。

先日、HRAIではSHRMと共催ウェビナーを開催し、日本・カナダ・インドで実際に障がいを抱えながら、ビジネスリーダーとして活躍している方々をお招きし、経営目線からの障がい者活躍についてお話を伺った。

 

インドから登壇いただいた、サンディープ氏はこれからの障がい者活躍に必要な5つの事の中で、JDの多様性と柔軟性を指摘していた。さまざまな障がいを持った人財に活躍してもらうには、既存のJDにとらわれず、既存のJDを分解するなどして、対応すべきであるとしている。例えば、視覚障がいの人財ができない一部のジョブを四肢障がいがある人財に担ってもらい、同じように障がいの種類によって対応できない部分のジョブだけを入れ替えることによって、一人一人がより活躍できる職場が実現できるとしている。

 

これは、JDが固定的になってはいけないというJDの原点に係るメッセージも含んでいる。

 

一度JDを作っても、一人一人のJDを毎年見直し更新していく。私が在籍していたグローバル企業では全世界で徹底して行われていた重要な人事戦略である。

 

ジョブディスクリプション(JD)から作ってはいけない

日本では、まだまだ多くの人がJDを見たことがない、というのが現状である。これは人事の分野で長く活躍している人も同じである。

 

そこでジョブ型を導入している大企業では大手コンサル企業を雇って、JDを一式買って、そこに人を当てはめていく、と聞く機会が多くある。

 

これは、大変危険!

 

JDの雛形を入手するのは重要ではあるが、JDの雛形に人を当てはめていくと、「ジョブ型」はうまくいかない、と断言できる。

 

では、どうしたらいいのか?

 

まず、一人一人がどのような仕事をしているのか、把握することから始める。それを書面にする。書面化をする際に雛形を参考にするといい。なんでも無から作り上げるのは非常にハードルが高い、そしてJDをゼロから作ることに労力を使っても、意味はあまりない。

英語の表現でよく、「You try to invent tire」という。「タイヤを発明するかのような徒労をするな。」ということである。

 

最も工夫を凝らし、時間を費やすべきことは、一人一人の必須の仕事、補助的仕事、組織の中での貢献などをきちんと把握すること。そして的確に文書化する。そしてJDには今後の人財開発、仕事の発展などの要素も含めていく。

なかなか、大変は仕事である。

 

では、JDは誰が作るのか?

直属の上司(ピープルマネージャー)がJDのオーナーであり、ライターであるが、人事はサポートをする。人事の腕の見せ所は、JDの良い雛形を多岐なジョブ、ランキングで常にストックしておき、ピープルマネージャーに適宜提供することである。

そして、ピープルマネージャーが書き上げたJDに必要であればアドバイスしてチューンアップする。

JDの作成、これは、ピープルマネージャーとHRがタッグを組んで取り掛からなければならない重要な仕事である。

ピープルマネージャーはHRに依存することはできないし、HRはピープルマネージャーに丸投げしてはいけない。

 

知っている人に聞くな

グローバルビジネスと日本のビジネスの仕方で最も違いがあるのが、「知っている人に聞く」の概念である。

 

グローバルでは、「Ask someone who is an expert」エクスパートに聞く(つまり、そのことに精通した人を探し出してプロの指南を受ける)。

 

日本では、「Ask someone I know」知り合いに聞く(そのことに精通しているかどうかは問題ではなく、聞きやすい既知の人に聞き、その分野について知識経験があるかは問わない)

 

この違いは大きい。

 

「ジョブ型コンサルティング」を提供する組織が非常に増えている。だが、実際にジョブ型をきちんと理解して、かつジョブ型の実務があるのか。それも運用だけでなく、ジョブ型人事制度まで作ったことがある、という人がいるのか、は非常に重要なポイントになる。

 

例えば、日本ではあまり知られていない競技がオリンピックで採用された場合、その競技で実際にメダルを取った人を指導者として迎え入れるのか、それともその競技は知らないけれど、以前に他の競技でメダルを取った日本で有名な元選手を指導者にするのか。

 

新しい競技でオリンピックで戦う場合、あなたはどちらの指導者を選ぶだろうか。


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