「ジョブ型」という誤解、そして世界が進む「スキル型人事」への道 〜日本特有の強みをどう活かすか

「ジョブ型」という言葉、海外にはない?

ここ数年、日本の人事界隈で大きな注目を集めている「ジョブ型」という言葉。

しかしグローバルでは、この用語そのものが存在しません。なぜなら、職務記述書(ジョブディスクリプション)や職務評価を軸とした人事制度が長年の標準であり、どのような人事制度を採用していても「ジョブ(一人一人の仕事の定義)」がベースになるので、「ジョブ型」という人事は存在しないわけです。

日本で「ジョブ型」と名付けられた「人事の仕組み」は、グローバルでは全ての人事における“当たり前の出発点”に過ぎないのです。

また、ジョブ型を“Job Based”と英語表記化している文献などもあるので、誤解はますます広がっているかもしれませんが、“Job Based”という英語も、日本で理解されている用語の意味としてはグローバルでは通用しないと言えるでしょう。

では、その先に世界の人事はどこへ進んでいるのでしょうか。

ジョブ中心からスキル並行へ

グローバル企業の最新トレンドは、ジョブ中心の枠組みに加え、スキルを軸にした人事運営を併走させることです。 Unilever や IBM、Novartis などは、社員の持つスキルやケイパビリティを起点にキャリア、配置、報酬を再設計し始めています。さらに採用の現場では 「学歴不問」「スキル重視」 が当たり前となりつつあり、学位や肩書きよりも「何ができるか」が評価の中心に置かれています。

日本が直面する課題

一方、日本企業は長年、ジョブローテーションを通じたゼネラリスト育成を強みとしてきました。 そのためスキル型へのシフトは、単なる制度変更ではなく、文化的・構造的な転換を意味します。

· キャリア観の転換:「幅広い社内業務の経験こそ価値」から「グローバルに通用し競争力のある専門性を深めることが価値」へ。

· 評価の再構築:年功や社歴の長さではなく、スキルや成果をどう透明に評価するか。

· 人事機能の役割変化:「ローテーションを計画する部門」から「スキルを見える化し適材適所を戦略的に設計する部門」へ。

日本型人事の強みをどう融合させるか

とはいえ、日本の伝統的な人事が培ってきた強みは、世界基準の中で活かせるものも多いのです。

· ゼネラリスト育成で磨かれた 協働性と組織横断力

· 長期的に人財育成へ投資してきた 企業文化

· 現場に根ざした 幅広い視野と実行力

これらをスキル型の仕組みと融合させれば、日本ならではの人事モデルが新たに生まれる可能性があります。

結びに

「ジョブ型」は日本特有の新語ですが、世界はすでに “ジョブ中心”から“スキル重視” へ歩みを進めています。 その変化に追いつくだけでなく、日本企業が持つ強みをどう融合し、独自の進化を遂げるか――これこそが、これからの日本の人事に問われているテーマなのです。

来月のコラムでは、「ジョブ型からスキル型へ:世代ごとに変わるキャリア設計とスキル教育のポイント」について解説していきます。

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華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

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