世界の潮流と人事の呼び名が語る進化 ― HRMからHCMへ 

人事の世界で使われる言葉は、時代とともに変化してきました。最近では「Human Resource Management(HRM)」よりも「Human Capital Management(HCM)」が国際的に主流になりつつあります。これは単なる言葉の流行ではなく、人事の役割や企業における「人」の位置づけそのものの変化を表しています。 


名称の変遷に見る時代の価値観 

人事部門を指す呼び名は、時代ごとに次のように変化してきました。 

  • Administration(管理)20世紀前半〜:人を「コスト」とみなし、勤怠や給与といった事務処理が中心。 
  • Personnel(人員管理)戦後〜:採用や配置、福利厚生といった「処遇」に重点が置かれる時代。 
  • Human Resources(人的資源)1970年〜:1970年代以降、人を「経営資源の一つ」と捉え、戦略的人事が広まる。 
  • Human Capital(人的資本)2010年頃〜:21世紀に入り、人は投資すべき「資本」として評価され、企業価値や持続可能性に直結する存在へ。 

この変遷は、人を「管理対象」から「価値創出の源泉」へと再定義してきた歴史といえるでしょう。 


HCMが広がる背 

テクノロジーの世界 

ガートナーの Magic Quadrant for Cloud HCM Suites(2024年版)では、WorkdayやOracle、SAPなど大手が「HCMスイート」を提供しています。IDCの市場調査でも「HCM」が標準カテゴリーとなり、ソフトウェア市場ではHCMが業界用語として定着しています。 

投資家との対話 

米国証券取引委員会(SEC)は2020年に規則を改正し、上場企業に「人的資本に関する重要な情報」の開示を義務づけました。EUのCSRD(企業持続可能性報告指令)やESRSでも、人的資本は欠かせない要素として位置づけられています。 

国際基準の整備 

ISO 30414(人的資本報告ガイドライン)が発行され、IFRSの統合報告フレームワークでも「6つの資本」の一つに人的資本が含まれています。非財務情報の開示においても人的資本は重要視されているのです。 

政策・国際機関の動き 

世界銀行は「Human Capital Project」を展開し、人的資本指数(HCI)を発表。各国が人的資本への投資を国家成長の基盤として扱っています。 


HRMは依然として現場で生きる 

一方で、「HRM」という言葉が消えたわけではありません。SHRM(Society for Human Resource Management)などの団体名や大学の教科書では引き続き「HRM」が使われています。現場の部門名としても「HR部門」「HRチーム」は馴染みの深い呼び名です。 


言葉が示す人事の未来 

呼び名の変化は、企業における人の意味づけを映しています。 

  • Administration:人=コスト 
  • Personnel:人=処遇対象 
  • HR:人=経営資源 
  • HCM:人=投資価値を持つ資本 

人事は「事務」から「戦略」、そして「投資家との対話の中心」へと進化してきました。今後、人事部門に求められるのは、単に人を管理するのではなく、人的資本をどう測定し、投資と価値創造につなげるかという視点です。 


参考 

  • Gartner (2024) Magic Quadrant for Cloud HCM Suites 
  • IDC (2023) Worldwide Human Capital Management and Payroll Applications 
  • SEC (2020) Regulation S-K, Item 101(c) 
  • EFRAG (2023) European Sustainability Reporting Standards (ESRS) 
  • ISO (2018/2025予定) ISO 30414: Human Capital Reporting 
  • IFRS Foundation (2021) International Framework World Bank (2024) Human Capital Project

華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

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