グローバル人事 の視点で読むASEAN製造業競争 ― スキル教育・人財投資・日本企業への示唆 

ASEAN製造業の競争力を決める人財戦略| グローバル人事 の新たな役割 

まず、ASEANにおける製造業の勢力図は、いま大きな転換点を迎え、グローバル人事 も新たな視点と戦略が必要になっています。

これまでASEANは、低コストの製造拠点、若い労働力、外資誘致の受け皿として語られることが多くありました。特に日本企業にとって、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアは、生産拠点、販売市場、サプライチェーンの一部として重要な地域であり続けています。 

しかし、いま起きている変化は、単なる「どの国に工場を置くか」という立地選択の問題ではありません。ASEAN各国は、製造業の高度化、半導体、EV、AI、グリーン産業、デジタル経済といった新しい成長分野に向けて、産業政策と人財政策を同時に進めています。 

つまり、ASEANの競争は、もはや「安い労働力の競争」ではなく、「どの国が次世代産業を支える人財を育てられるか」という人財競争へと変化しているのです。 

今回比較するベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアは、それぞれ異なる強みを持っています。ベトナムは低コストと輸出競争力、タイは成熟した自動車産業とサプライチェーン、インドネシアは巨大な国内市場とEVバッテリー関連産業、マレーシアは半導体・医療機器・精密製造などの高付加価値分野に強みを持っています。 

一方で、これらの違いを単なる国別比較として見るだけでは不十分です。 グローバル人事 の視点で見るべきなのは、それぞれの産業競争力の背後に、どのようなスキル教育、どのような人財投資、どのような労働市場の構造があるのかという点です。 

なぜなら、製造業の競争力は、工場、設備、インフラ、税制だけでは決まらないからです。最終的にその競争力を支えるのは、人財です。現場で品質を守る人財、設備を保全する人財、データを読み改善できる人財、国際基準を理解する人財、現地組織を率いるリーダー人財がいなければ、どれほど優れた投資環境があっても、持続的な競争力は生まれません。 

したがって、これからの グローバル人事 に求められるのは、国別の労務管理や駐在員管理にとどまらず、各国の産業政策、人財政策、スキル教育の方向性を読み解き、経営戦略と人財戦略を接続する力です。 

1. ASEAN製造業比較 (2025 vs2026) から見える、各国の競争力の違 

参考資料 Vietnam Industrial Intelligence 

LinkedIn
LinkedIn Login, Sign in | LinkedIn Login to LinkedIn to keep in touch with people you know, share ideas, and build your career.

ASEAN主要4カ国であるベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアを比較すると、製造業の競争力は「労働コスト」だけでは説明できないことが分かります。経済規模、人口、成長率、賃金水準、産業エコシステム、輸出構造を重ねて見ることで、各国が異なる競争軸を持っていることがより明確になります。 

まず、経済規模ではインドネシアが圧倒的です。参考図では、インドネシアの名目GDPは約1.5兆米ドル、人口は約2億8,500万人とされ、4カ国の中で最大の市場規模を持っています。IMFのWorld Economic Outlookでも、インドネシアの名目GDPは約1.54兆米ドルとされており、同国がASEAN最大級の経済であることが確認できます。これは、インドネシアが単なる製造拠点ではなく、巨大な国内需要を背景とした「市場主導型」の成長ポテンシャルを持つことを意味します。特に消費財、EVバッテリー、ニッケル関連産業では、国内市場と資源を組み合わせた成長が期待されます。(IMF

一方で、ベトナムは経済規模ではインドネシアより小さいものの、成長率と輸出競争力で際立っています。参考図では、ベトナムの名目GDPは約5,140億米ドル、人口は約1億100万人、GDP成長率は8.0%とされています。世界銀行も、ベトナムの2025年成長率を8.0%とし、製造業輸出の回復と内需の改善が成長を支えたと説明しています。また、参考図ではベトナムの貿易総額は9,300億米ドル超、輸出は4,750億米ドル超、製造業製品が輸出の約89%を占めるとされています。これは、ベトナムが国内市場の大きさよりも、グローバルサプライチェーンへの接続力、輸出競争力、FTAネットワークを強みにしていることを示しています。(世界銀行

さらに、製造業の月額労働コストを見ると、ベトナムの優位性はより明確になります。参考図では、ベトナムの製造業月額労働コストは約350米ドル、インドネシアは約420米ドル、タイは約550米ドル、マレーシアは約850米ドルとされています。つまり、マレーシアの労働コストはベトナムの約2.4倍、タイは約1.6倍、インドネシアは約1.2倍です。ベトナムは、低コストでありながら、電子機器、半導体サプライチェーン、繊維・アパレルなどの輸出産業に強みを持つため、コストと輸出競争力のバランスが高い国といえます。 

しかし、労働コストの低さだけで判断すると、重要な論点を見落とします。タイは参考図上では成長率が約2.0%と低めに示され、労働コストもベトナムより高い水準です。それでも、タイには自動車産業を中心とした成熟した製造業エコシステムがあります。完成車メーカー、部品サプライヤー、物流、品質管理、熟練労働力が長年蓄積されており、これは短期間では再現できない競争力です。実際、タイ政府は半導体8万人、EV15万人、AI5万人、合計28万人の高技術人財を今後5年間で育成する計画を示しており、既存の産業基盤を次世代技術へ接続しようとしています。(Reuters

また、マレーシアは人口約3,500万人と市場規模は4カ国の中で最も小さい一方、半導体、医療機器、精密製造、高付加価値輸出に強みを持っています。参考図では、製造業月額労働コストは約850米ドルと最も高く示されていますが、これは同時に、高度な技術人財、英語力、品質管理、国際ビジネス対応力を備えた人財市場を持つことの裏返しでもあります。マレーシアはNational Training Week 2025において、ASEAN市民にも開かれた6万5,000件以上の無料スキルトレーニング機会を提供する構想を示しており、AI、デジタル化、グリーン技術、リーダーシップといった分野で人財高度化を進めています。(HRD Corp

この比較から導ける洞察は、ASEANの製造業競争が、すでに単純な「低賃金競争」ではなくなっているということです。インドネシアは1.5兆米ドル規模の巨大市場、ベトナムは8.0%成長と高い輸出競争力、タイは成熟した自動車・サプライチェーン基盤、マレーシアは高付加価値製造と技術人財というように、それぞれ異なる競争軸を持っています。 

2. ASEANにおける グローバル人事 の視点 

したがって、 グローバル人事 の視点では、各国を同じ基準で比較するのではなく、「どの国で、どの能力を作るのか」を見極める必要があります。ベトナムでは、低コスト人財を高付加価値製造人財へ育成すること。タイでは、既存の熟練人財をEV・半導体・AIへリスキリングすること。インドネシアでは、人口規模を熟練労働力へ転換するスキル供給体制を作ること。マレーシアでは、高度専門人財を惹きつけ、定着させ、さらに高度化すること。これらはすべて、経営戦略と直結する人財戦略です。 

つまり、このデータが示している本質は、「どの国が最も優れているか」ではありません。各国の経済規模、成長率、労働コスト、産業基盤、人財投資の違いを読み解き、事業戦略に応じて国別人財戦略を設計する必要があるということです。ASEAN製造業の競争は、工場立地の競争から、人財競争力の競争へと移行しています。ここに、 グローバル人事 が経営に貢献すべき大きな役割があります。 

3. ベトナム:低コスト製造から、ハイテク人財国家へ 

まず、ベトナムは、近年のASEAN製造業の中で最も注目を集める国の一つです。 

ベトナムの強みは、相対的に低い人件費、若い労働力、安定した投資環境、FTAネットワーク、輸出志向の産業政策にあります。多くのグローバル企業が、China+1の文脈でベトナムを重要な製造拠点として位置づけてきました。 

しかし、ベトナムの次の課題は明確です。それは、低コスト製造拠点から、高付加価値製造拠点へ移行できるかということです。 

特に注目されるのが、半導体分野です。ベトナムは、2030年までに半導体分野で5万人規模の人財を育成する目標を掲げています。Vietnam Newsは、ベトナム政府が2030年までに半導体産業向けに5万人規模の人財を育成する計画を進めていると報じています(出典:Vietnam News “VN to develop a 50,000-strong workforce for semiconductor industry”)。 

 グローバル人事 の役割:低コスト人財から、高付加価値人財への移行 

また、ベトナムは半導体産業の国家戦略において、2030年までに半導体バリューチェーン全体に対応できる5万人以上の大卒以上人財を育成し、AIを含む高度専門人財の育成も進める方針を示しています(出典:Vietnam News “Strategy issued to develop Việt Nam’s semiconductor industry”)。 

さらに、この動きは単なる産業誘致ではありません。半導体産業を育てるには、エンジニア、研究者、設備技術者、品質保証人財、データ人財、プロジェクトマネージャー、英語で技術移転を受けられる人財が必要です。つまり、ベトナムが目指しているのは、安価な労働力を提供する国ではなく、グローバルサプライチェーンの中で高度な役割を担える人財国家への転換です。 

一方で、この転換は容易ではありません。低コストを強みに成長してきた国が、高付加価値産業に移行する際には、スキルギャップが必ず発生します。生産ラインの作業人財はいても、工程設計や品質保証、研究開発、国際プロジェクト管理を担える人財が不足することがあります。 

だからこそ、ベトナムに進出する企業には、採用だけでなく育成の視点が必要です。現地で即戦力を採るだけではなく、自社の事業に必要なスキルを明確化し、現地人財を段階的に育て、将来的にはローカルリーダーとして登用する仕組みが求められます。 

つまり、ベトナムにおける グローバル人事 の論点は、「安く採用できるか」ではありません。「将来の高付加価値製造を担う人財を、どのように育てるか」です。 

日本企業にとっても、ベトナムを単なる生産拠点として見る時代は終わりつつあります。今後は、技術移転、人財育成、現地リーダー開発、専門職制度、キャリアパス設計を含めた国別人財戦略が必要になります。 

4. タイ:成熟した製造業エコシステムを、次世代技術へ接続する 

次に、タイはASEANの中でも製造業エコシステムが成熟した国です。 

特に自動車産業において、タイは長年にわたり完成車メーカー、部品メーカー、サプライヤー、物流、熟練労働力を蓄積してきました。その意味で、タイの強みは単に工場が多いことではなく、産業の厚みがあることです。 

しかし、タイもまた大きな転換期にあります。従来型の自動車産業から、EV、半導体、AI、デジタル産業、グリーン産業へと産業構造を高度化しようとしています。 

実際に、タイ政府は今後5年間で、半導体、EV、AIなどの高技術分野において28万人規模の人財を育成する計画を示しています。Reutersは、タイ政府が半導体分野で8万人、EV分野で15万人、AI分野で5万人、合計28万人の高技術人財を育成する方針を報じています(出典:Reuters “Thailand targets 280,000 workforce in high-tech sectors over 5 years”)。 

また、この政策には、学生や研究者だけでなく、既存の産業人財を対象としたリスキリング・アップスキリングの意味があります。成熟した製造業を持つタイにとって重要なのは、ゼロから産業を作ることではありません。既にある産業基盤と人財を、次世代技術へ接続することです。 

 グローバル人事 の役割:成熟した人財基盤を、いかに変革できるか 

たとえば、EV化が進めば、従来のエンジン部品や機械加工の知識だけでは不十分になります。バッテリー、電装系、センサー、ソフトウェア、データ通信、安全基準、サイバーセキュリティなど、新しい知識とスキルが求められます。 

さらに、AIや半導体の分野では、研究開発人財だけでなく、現場で技術を理解し、工程に落とし込み、品質を管理できる実装人財が必要になります。ここに、タイの人財戦略の難しさと可能性があります。 

一方で、成熟した産業構造は、時に変化への抵抗にもなります。既存の成功体験が強いほど、新しい技術への移行は遅れやすくなります。これまでの強みが、次の時代には制約になることもあります。 

だからこそ、タイにおける グローバル人事 の役割は、既存人財の再教育、職務再設計、スキルマップの更新、キャリア転換支援にあります。人財ポートフォリオを見直し、これまでの熟練技能を新しい産業要件にどう接続するかが問われます。 

つまり、タイは「成熟した人財基盤を、いかに変革できるか」を考えている国です。 

日本企業にとっても、タイは単なる生産拠点ではなく、地域統括、人財育成、サプライチェーン高度化、技術移転の拠点になり得ます。今後は、現地人財をいかに次世代型の製造業人財へ育てるかが、競争力を左右するでしょう。 

5. インドネシア:巨大市場を支える、スキル供給体制の構築 

さらに、インドネシアはASEAN最大級の人口と国内市場を持つ国です。 

インドネシアの強みは、巨大な消費市場、豊富な資源、若い人口、EVバッテリー関連産業への期待にあります。特にニッケル資源を背景としたEVバッテリー産業は、今後の産業政策の重要な柱として注目されています。 

しかし、インドネシアの最大の課題もまた、人財です。 

インドネシアは、2030年までに5,700万人規模の熟練労働者を新たに経済に加える必要があるとされています。オーストラリア外務貿易省、DFATの教育・スキル・訓練分野に関する資料でも、インドネシアが2030年までに5,700万人の熟練労働者を必要としていることが示されています(出典:DFAT “Education, Skills and Training Sector in Brief”)。 

これは、単に多くの人を雇用するという話ではありません。人口規模を、本当の意味での人財競争力に転換できるかという課題です。 

また、インドネシアの職業教育訓練、いわゆるTVETは、複数の省庁や地方政府にまたがって運営されており、制度が分散しやすいという特徴があります。OECDは、インドネシアの職業教育訓練政策の責任が、労働省、教育文化省、その他省庁、州・市レベルの地方政府に分散していると指摘しています(出典:OECD “Employment and Skills Strategies in Indonesia”)。 

つまり、広大な国土と多様な地域性を持つインドネシアでは、全国一律の人財育成モデルを作ることが難しく、産業界が求めるスキルと教育機関が提供するスキルの間にギャップが生じやすくなります。 

一方で、グリーンジョブやデジタル産業、EV関連産業が拡大する中で、職業教育訓練の重要性はますます高まっています。World Economic Forumは、インドネシアがグリーンジョブへの移行を支えるために、技術・職業教育訓練を再活性化していると紹介しています(出典:World Economic Forum “Why Indonesia’s green jobs and vocational training drive matters”)。 

 グローバル人事 の役割:新しい産業で、新しい職務が生まれ、新しい定義が必要になる。 

新しい産業では、新しい職務が生まれます。新しい職務には、新しいスキル定義が必要です。そして、そのスキルを育てる教育機関、企業内研修、資格制度、労働市場情報の連携が不可欠です。 

したがって、インドネシアにおける グローバル人事 の論点は、「人が多いから採用しやすい」という単純な話ではありません。むしろ、「人口規模をどのようにスキルある人財へ変換するか」という視点が重要です。 

日本企業がインドネシアで事業を展開する場合、完成された人財市場に依存するだけでは不十分です。自社が必要とする職務要件を明確にし、現地の教育機関、職業訓練機関、政府、業界団体と連携しながら、人財供給の仕組みそのものを作る必要があります。 

つまり、インドネシアにおける グローバル人事 は、採用機能ではなく、人財供給システムを共に設計する機能でなければなりません。 

これは、日本企業にとっても重要な示唆です。人口が多い国では、採用できる人数に目が行きがちです。しかし、本当に重要なのは、採用後にどのようなスキルを身につけさせ、どの職務を任せ、どのように現地リーダーへ育てるかです。 

6. マレーシア:高付加価値産業を支える、精密人財とAI時代のスキル戦略 

一方で、マレーシアはASEANの中でも高付加価値製造に強みを持つ国です。 

特に半導体、電子機器、医療機器、精密製造、エンジニアリング分野において、マレーシアは長年にわたりグローバル・バリューチェーンに組み込まれてきました。英語力、国際ビジネス対応力、品質管理、精密製造の経験も、マレーシアの競争力を支える要素です。 

同時に、マレーシアはAI時代に向けた人財育成にも力を入れています。マレーシア投資開発庁、MIDAは、AIや自動化がマレーシアの経済と雇用市場を変革しており、専門スキルを持つ人財への需要が高まっていると紹介しています(出典:MIDA “Preparing Malaysia workforce for an AI-driven 2025”)。 

さらに、National Training Weekでは、ASEAN市民にも開かれた形で多数のスキルトレーニング機会を提供する取り組みが紹介されています。World Economic Forumは、マレーシアが2025年6月にNational Training WeekをASEAN市民にも開放し、6万5,000件の高品質なスキルトレーニングコースを提供する構想を示したと紹介しています(出典:World Economic Forum “How Malaysia has been preparing its workforce for the future”)。 

また、HRD Corpの発表でも、National Training Week 2025は、2025年6月14日から21日まで、全国およびオンラインで6万5,000件以上の無料コースをASEAN市民に提供する取り組みとして紹介されています(出典:HRD Corp “Malaysia opens National Training Week to all ASEAN citizens for the first time”)。 

さらに、AI、デジタル化、グリーン技術、リーダーシップといった領域での学習機会は、製造業の高度化とも密接に関係しています。これからの製造業では、単に機械を動かす人ではなく、データを理解し、異常を検知し、改善を提案し、国際基準に沿って品質を守れる人財が求められます。 

 グローバル人事 の役割:高付加価値を生み出す人財を活用するための 

従って、マレーシアの強みは、安さではありません。高付加価値を生み出す人財を活用できることです。 

一方で、高度人財を活用する国では、人財獲得競争も激しくなります。半導体、AI、データ、医療機器、精密製造の人財は、国内企業だけでなく、グローバル企業からも求められます。そのため、採用だけでなく、定着、キャリア開発、専門職制度、報酬制度、リーダー育成が非常に重要になります。 

だからこそ、マレーシアにおける グローバル人事 の役割は、高度専門人財を惹きつけ、育て、定着させる組織を作ることです。給与だけでなく、成長機会、専門性の評価、キャリアパス、グローバルプロジェクトへの参加機会が、リテンションの鍵になります。 

つまり、マレーシアは「高付加価値人財を、どう維持し、さらに高度化するか」を考える国です。 

7. ASEAN製造業比較から見える、 グローバル人事  戦略の本質 

このように、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア。いずれもASEANを代表する産業国家ですが、それぞれの強みは明確に異なります。ベトナムは低コストと輸出競争力、タイは成熟した自動車産業とサプライチェーン、インドネシアは巨大な国内市場とEVバッテリー関連産業、マレーシアは半導体・医療機器など高付加価値分野に強みを持っています。 

さらに、今回の比較資料では、ベトナムが「コスト、人財、FDIの勢い、輸出競争力の総合バランス」において優位とされています。実際、世界銀行もベトナム経済について、2025年の成長を製造業輸出の回復と内需回復が支えたと説明しており、同国がグローバルサプライチェーンの中で存在感を高めていることがうかがえます。https://www.worldbank.org/ext/en/country/vietnam?utm_source=chatgpt.com 

一方で、ここで私たちが注目すべきなのは、単なる「どの国が勝っているか」という比較ではありません。 

従って、本質的な問いは、産業競争力の差は、どのような人財競争力の差から生まれているのかという点です。 

もはや、製造業における国際競争力は、もはや労働コストだけでは決まりません。工場を建てること、外資を誘致すること、輸出インフラを整えることは重要です。しかし、それだけでは持続的な成長にはつながりません。高度化する製造業を支えるには、現場オペレーションを担う人財、品質管理を徹底できる人財、データを活用できる人財、複数国にまたがるサプライチェーンを理解できる人財、そして変化に対応できるリーダーが必要です。 

つまり、これからのASEAN競争は、工場誘致競争であると同時に、人財育成競争でもあります。 

たとえば、タイは自動車産業において成熟したエコシステムを持っています。世界銀行によると、タイの製造業がGDPの約25%、雇用の約16%を占め、600万人以上の雇用を支えているとしています。 これは、長年にわたり蓄積された産業人財、技能、マネジメント、サプライチェーン運営力の結果です。産業の成熟とは、単に企業数が多いことではなく、そこで働く人々の経験値と組織能力が蓄積されているということです。 

インドネシアは、巨大な人口と国内市場を背景に、EVバッテリー分野での存在感を高めています。ロイターは、インドネシアと中国企業によるリチウムイオン電池工場が2026年末までに稼働予定であると報じています。 しかし、このような新産業の成長には、資源や設備だけでなく、技術者、品質管理人財、安全管理人財、グローバル企業と協働できるマネジメント人財が不可欠です。 

マレーシアは、半導体や医療機器など高付加価値産業に強みを持っています。世界銀行も、マレーシアが電子機器、機械、化学品などのグローバル・バリューチェーンに深く組み込まれていると説明しています。 ここで求められるのは、単なる労働力ではなく、精密性、技術理解、コンプライアンス、英語力、国際基準への対応力を備えた人財です。 

そしてベトナムは、低コスト、若い労働力、FTAネットワーク、輸出競争力を背景に、製造業拠点としての魅力を高めています。ただし、ベトナムの次の課題は「安い人件費」から「高い生産性」への移行です。世界銀行も、ベトナムが高所得国への道を進むためには、ハイテク人財への投資が次のステップであると指摘しています。 

8. ASEANにおけるこれからの日本企業の人財戦略の本質 

ここまで見てきたように、ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアの製造業競争力は、それぞれ異なる人財課題と結びついています。 

ベトナムは、低コスト製造からハイテク人財国家へ移行しようとしています。 

タイは、成熟した製造業エコシステムを次世代技術へ転換しようとしています。 

インドネシアは、巨大な人口と市場を熟練労働力へ変換しようとしています。 

マレーシアは、高付加価値産業を支える専門人財とAI時代のスキル戦略を強化しようとしています。 

つまり、ASEANを一括りにして「安い労働力の地域」と見ることは、もはや適切ではありません。各国は、それぞれ異なる産業政策、人財政策、スキル教育の方向性を持っています。 

したがって、日本企業がASEANで競争力を持つには、国別の人財戦略が必要です。 

どの国で、どの職務を担わせるのか。 
どの国で、どのスキルを育てるのか。 
どの国で、ローカルリーダーを育成するのか。 
どの国を、製造拠点、技術拠点、地域統括拠点として位置づけるのか。 
どの国の人財を、将来的に他国へ展開するのか。 

これらは、すべて  グローバル人事  の重要な論点です。 

9.  グローバル人事 は、海外人事から経営提言機能へ進化する 

これまで、海外人事というと、駐在員管理、現地採用、給与、福利厚生、労務管理、赴任・帰任手続きなどが中心に語られてきました。もちろん、これらは今でも重要です。 

しかし、これからの グローバル人事 は、それだけでは不十分です。 

各国の産業政策、スキル教育政策、労働市場、賃金構造、教育制度、文化、法制度を理解し、経営戦略と人財戦略を接続する必要があります。 

たとえば、ベトナムに進出するなら、半導体やハイテク人財育成の動きと連動した採用・育成戦略が必要です。タイで事業を展開するなら、既存の熟練人財をEVやAI時代に再教育するリスキリング戦略が重要です。インドネシアでは、採用市場に頼るだけでなく、教育機関や訓練機関と連携した人財供給モデルが必要です。マレーシアでは、高度技術人財を惹きつけ、定着させ、専門性を伸ばす報酬制度とキャリア制度が欠かせません。 

つまり、 グローバル人事 とは、単に海外で人を雇うことではありません。 

 グローバル人事 とは、世界のどこで、どのような人財能力を作り、どのように事業成長につなげるかを設計する経営機能です。 

だからこそ、これからの人事には、労務管理だけではなく、経営への提言力が求められます。 

その国で本当に必要な人財は採れるのか。 
採れないなら、育てられるのか。 
育てるには何年かかるのか。 
現地管理職は育つのか。 
専門職のキャリアパスは作れるのか。 
本社主導と現地自律のバランスはどう設計するのか。 
教育投資は、将来の生産性向上につながるのか。 

これらは、人事の論点であると同時に、経営の論点です。 

10. 日本企業への示唆:海外展開の成否は、人財設計で決まる 

さらに、日本企業にとって重要なのは、ASEANを一律に見ないことです。 

ベトナムには、ベトナムの人財戦略があります。 
タイには、タイの人財戦略があります。 
インドネシアには、インドネシアの人財戦略があります。 
マレーシアには、マレーシアの人財戦略があります。 

そして、それらを個別最適で終わらせるのではなく、企業全体の グローバル人事 戦略として統合する必要があります。 

たとえば、ベトナムでは若い人財を育成しながら高付加価値製造へ移行する。タイでは既存の熟練人財を次世代技術へ再教育する。インドネシアでは人財供給の仕組みを現地と共に作る。マレーシアでは高度専門人財を活かし、定着させる。 

このように、国ごとの役割を明確にした上で、全体としてどのような人財ポートフォリオを作るのかを考える必要があります。 

つまり、海外展開の成否は、進出国の選定だけでは決まりません。進出後にどのような人財を採用し、育成し、任せ、定着させるかによって決まります。 

これこそが、 グローバル人事 の本質です。 

11. HRAIが考える グローバル人事 :人事で繋ぐ、日本と世界 

最後に、HRAIが提唱する グローバル人事 は、単なる海外拠点の人事ではありません。 

それは、世界の変化を読み解き、人財の観点から経営に提言し、事業成長に必要な組織能力を国境を越えて設計する力です。 

ASEANの製造業比較は、その重要性を非常に分かりやすく示しています。各国の競争力は、GDP、人口、賃金、インフラだけで決まるのではありません。その国に、どのようなスキルが育ち、どのような人財政策があり、どのような教育投資が行われ、どのような産業人財が蓄積されているのかによって決まります。 

そして、企業の競争力も同じです。 

どの国に進出するか。 
どの産業に投資するか。 
どの人財を採用し、育成し、任せるか。 
どのように現地リーダーを育てるか。 
どのように本社と現地をつなぐか。 
どのように グローバル人事 戦略として統合するか。 

この問いに答えられる グローバル人事 こそ、これからの経営において不可欠な存在です。 

したがって、産業競争力の時代は、人財競争力の時代へと移行しています。 

ASEANの国々は、今まさに人財投資を通じて産業競争力を高めようとしています。ベトナムはハイテク人財へ、タイはEV・半導体・AI人財へ、インドネシアは熟練労働力とグリーンジョブへ、マレーシアは高付加価値産業とAI時代の人財へと、それぞれ進化を進めています。 

これは、ASEANだけの話ではありません。世界中で、産業政策と人財政策は一体化しつつあります。製造業、AI、半導体、EV、グリーン産業、医療機器、デジタルインフラ。どの分野においても、最終的に競争力を決めるのは人財です。 

だからこそ、これからの日本企業に必要なのは、世界の人財競争を読み解き、経営に提言できる グローバル人事 人財です。 

HRAIは、これからも「人事で繋ぐ、日本と世界」という理念のもと、世界の変化を人財の視点から読み解き、 グローバル人事 の学びと実践を発信してまいります。 

GHR-ACADEMYTM : HRAIが提供するグローバル人事の体系的教育と資格の広がり 

さらに、HRAIが推進するグローバル人事の教育・資格は、ASEANにも広がり始めています。グローバル人事を体系的に学び、国際的な視点から人財戦略を構想できる人事人財を育成することは、ASEAN諸国にとっても重要なテーマです。製造業の高度化、スキル教育、リスキリング、人財投資が進む中で、グローバル人事を理解し、経営と人財を接続できる専門人財へのニーズは高まっています。https://hr-ai.org/ 

ASEAN地域からの受講者の声 https://www.youtube.com/watch?v=vwiCUxfvgs0 

12. HRAIが築いてきた、ASEAN・アジア諸国とのグローバル人事ネットワーク 

HRAIは、ASEAN諸国の人財戦略を外から論じているだけではありません。これまで、世界人事会議をはじめ、各国の大学、政府機関、行政機関、企業人事リーダーとの交流を通じて、グローバル人事に関する継続的な信頼関係と実績を築いてきました。 

たとえば、マレーシアでは大学において講演を行い、次世代の人財育成、グローバル人事、国際的なキャリア形成について、学生・教育関係者との対話を重ねてきました。これは、HRAIが企業人事だけでなく、教育機関とも連携しながら、アジアにおける人財育成の未来を共に考えてきた実績の一つです。https://hr-ai.org/what-new/tarumt/ 

また、タイにおいては、タイ政府主導のもと、バンコク都管理局からグローバル人事教育研修団を受け入れました。行政機関の人事担当者が日本を訪れ、グローバル人事、人財育成、組織運営、リーダーシップについて学ぶ機会を提供したことは、HRAIが国境を越えた人事教育の受け皿として信頼を得ていることを示しています。https://hr-ai.org/wp-content/uploads/2024/06/The-Thai-government-dispatched-them-to-complete.pdf 

カンボジア政府からは、金融庁の人事オフィサー八名を含む参加団が昨年来日し「第三回世界人事会議」に参加し、制度、産業、人財育成の視点を交えた国際的な対話が行われました。https://hr-ai.org/new-column/cambodia1/ 

さらに、世界人事会議には、ASEAN、アジアパシフィック、欧米、アフリカより毎年グローバル人事を担う人事リーダー、政府の参加団が来日し、各国の人事課題、人財育成、リーダーシップ、組織開発の実践知を共有してきました。 

これらの実績は、HRAIが単なる日本国内の人事教育機関ではなく、世界の人事リーダー、行政機関、教育機関とつながるグローバル人事のプラットフォームとして発展してきたことを示しています。 

ASEANの人財競争力を理解するには、統計データや政策資料だけでは不十分です。現地の人事リーダーが何に悩み、行政機関がどのような人財育成課題を抱え、教育機関がどのような次世代人財を育てようとしているのか。そのリアルな声を知ることが、グローバル人事の実践には欠かせません。 

HRAIの強みは、まさにこの点にあります。世界の人事を学ぶだけでなく、世界の人事リーダー、行政機関、教育機関とつながり、日本企業の人事が経営に提言できる視点へと昇華すること。これが、HRAIが「人事で繋ぐ、日本と世界」という理念のもとで築いてきた、ASEAN・アジア諸国とのグローバル人事ネットワークです。 

ASEAN・世界のグローバル人事 リーダーが集う、第四回世界人事会議へ 

このようなASEAN各国の産業構造、人財投資、スキル教育の変化は、日本企業にとって決して遠い話ではありません。ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアをはじめとするASEAN諸国は、もはや単なる製造拠点ではなく、次世代産業を支える人財、技術、経営の重要なパートナーへと進化しています。 

だからこそ、これからの グローバル人事 には、各国の労働市場や制度を理解するだけでなく、現地の経営者、人事リーダー、教育機関、政策関係者と対話しながら、国境を越えた人財戦略を構想する力が求められます。 

HRAIが開催する第四回世界人事会議では、ASEANをはじめ世界各国から、 グローバル人事 をリードする人事リーダー、経営者、専門家が集い、世界の人財課題、産業構造の変化、スキル教育、人財投資、リーダーシップ、そして日本企業のグローバル展開について議論します。https://www.ghrjapan.org/26ghr 

これまでも本会議には、ASEAN諸国からは、ブルネイ、カンボジア、マレーシア、フィリピン、シンガポールから正式参加団を迎えました。また、タイからは、バンコク首都管理局から、研修団を受け入れています。 

また、ASEAN諸国以外の国々からも毎年 グローバル人事 を担う人事リーダーの参加団が来日し、各国の人事課題や実践知を共有してきました。 

また、政府関係者の参加実績として、昨年はカンボジア政府より、金融庁の人事オフィサー参加団、一昨年は韓国警視庁より人事幹部が来日し、各国の官民学をつなぎ、国家対策、人財育成制度、産業、人財育成の視点を交えた国際的な対話が行われました。https://www.ghrjapan.org/internationaldelegations-26ghr 

まとめ:これからのASEAN人財戦略のおける グローバル人事 の役割 

本コラムで見てきたように、ASEAN製造業の競争力は、もはや労働コストだけでは説明できません。ベトナムのハイテク人財育成、タイのEV・半導体・AI人財へのリスキリング、インドネシアの熟練労働力育成、マレーシアの高付加価値人財戦略は、いずれも グローバル人事 が経営に提言すべき重要なテーマです。 

第四回世界人事会議は、こうした世界の人財競争を、単なる海外動向としてではなく、日本企業の経営課題として捉え直す機会です。ASEANの成長をどう読むのか。各国の人財政策をどう事業戦略に接続するのか。現地人財をどう育成し、ローカルリーダーをどう登用するのか。そして、日本の人事は、世界の経営にどのように貢献できるのか。 

これらの問いに向き合うことこそ、これからの グローバル人事 に必要な視点です。 

HRAIは、「人事で繋ぐ、日本と世界」という理念のもと、第四回世界人事会議を通じて、ASEANをはじめとする世界の人事リーダー・経営者との対話を深め、日本企業が世界の人財競争を読み解き、経営に提言できる グローバル人事 人財を育てる場を創出してまいります。 

参考出典 

Vietnam News “VN to develop a 50,000-strong workforce for semiconductor industry” 
https://vietnamnews.vn/economy/1651407/vn-to-develop-a-50-000-strong-workforce-for-semiconductor-industry.html 

Vietnam News “Strategy issued to develop Việt Nam’s semiconductor industry” 
https://vietnamnews.vn/economy/1663495/strategy-issued-to-develop-viet-nam-s-semiconductor-industry.html 

Reuters “Thailand targets 280,000 workforce in high-tech sectors over 5 years” 
https://www.reuters.com/markets/asia/thailand-targets-280000-workforce-high-tech-sectors-over-5-years-2024-06-17/ 

DFAT “Education, Skills and Training Sector in Brief” 
https://www.dfat.gov.au/sites/default/files/blueprint-trade-investment-indonesia-sector-snapshot-education-skills-and-training-sector.pdf 

OECD “Employment and Skills Strategies in Indonesia” 
https://www.oecd.org/en/publications/employment-and-skills-strategies-in-indonesia_dc9f0c7c-en/full-report/assessment-and-recommendations_04a2e786.html 

World Economic Forum “Why Indonesia’s green jobs and vocational training drive matters” 
https://www.weforum.org/stories/2025/05/indonesia-green-jobs-vocational-education-training/ 

MIDA “Preparing Malaysia workforce for an AI-driven 2025” 
https://www.mida.gov.my/mida-news/preparing-malaysia-workforce-for-an-ai-driven-2025/ 

World Economic Forum “How Malaysia has been preparing its workforce for the future” 
https://www.weforum.org/stories/2025/06/malaysia-steven-sim-workforce-future-ai/ 

HRD Corp “Malaysia opens National Training Week to all ASEAN citizens for the first time” 
https://hrdcorp.gov.my/wp-content/uploads/2025/07/Press-Release-AHCDIS-2025-2.pdf 

華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

グローバル人事 の視点で読むASEAN製造業競争 ― スキル教育・人財投資・日本企業への示唆

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!