グローバルで勝つための人事の在り方 - 人事資格認定機構-HRAI-

2021/07/27

グローバルで勝つための人事の在り方

2021年5月25日、インタビュー形式で行われたウェビナー(エッセンス株式会社主催)に、HRAI代表理事の華園がメインゲストとして出演しました。当日のインタビューをコラムにまとめました。

 

そもそも、人事の責任領域とはどこまでですか?

これまでは人事の役割としては管理がメインだったと思いますが、これからは事業のパートナーになることや、一人ひとりの活躍を引き出すことにフォーカスが変わってきているかと思います
旧来的な人事の役割とニューノーマルな人事に必要とされる責任領域や役割の違いはどこにあるのでしょうか

 

華園)そもそもHRには3つの責任領域があります。
   管理的
   運用的
   戦略的 役割です。

多くの企業において、「管理的人事」の役割は、給与計算、人事記録管理などに代表されるものであり、必然でもありますので、どこの人事でも行なっている領域でしょう。

昨今は「運用的」な役割についても社会の注目も企業の注力も大きくなってきていると思います。運用的役割の代表的役割には「採用」があります。

 

さて、「戦略人事」です。こちらはまだまだ取り組んでおられない企業が多いと思います。経営戦略に「財務戦略」「IT戦略」「営業戦略」「マーケティング戦略」は必ず入っていると思いますが、「人事戦略」はどうでしょうか?

 

「人事戦略」とは、「採用計画」「ベアアップ」などの個別計画だけを指すのではなく、もっと包括的なもので「企業にとって必要な人財とは」という「フィロソフィー」から落とし込まれた戦略のことです。

これらHRの3つの責任領域は、どれが必要か、とかどれがより重要かといった議論ではなく、3つ全てが必要であり重要であります。
しかしながら、日本の企業においては人事が戦略的役割を担っていくのはまだまだこれからというフェーズだと思います。
そして、「ニューノーマル」の時代だからこそ、戦略的人事の役割は必要不可欠となっており、急務であると思います。

 

こういった3つの人事の役割を踏まえてこれからの人事に持つべき3つの事とは、
「人事哲学」
「人事戦略」
「人事の数字」 であると私ども人事資格認定機構HRAIでは提唱しています。

世界の人事のトレンドはどの様になっていますか?

・GAFAやネットフリックス、などのIT新興企業を中心とした人事のトレンドは何になりますでしょうか
・コロナ禍後において人事のトレンドに変化はあったのでしょうか

 

華園)GAFAやネットフリックスがリードしている現在のアメリカでの人事トレンドといえば引き続き『People Analytics:ピープルアナリティクス』と言えるでしょう。

これは、ご存知の方も多いと思いますが、社内に蓄積している社員にかかわる様々なデータを収集、分析し人事戦略を数理的に組み立て、人事戦略が組織全体の目標達成においてどのように貢献しているかを数字で表していく事です。
アメリカでは、既にピープルアナリティクスは人事プロフェッショナルの重要なスキルの一つと考えられており、私共人事資格認定機構のパートナーであるSHRMでは、既に教育プログラムが提供され、ピープルアナリティクス資格の認定が行われています。

 

GAFAなどはもともとIT企業でもあり、事業自体をビッグデータの活用と分析で発展させているので、いわばデータ収集・分析・活用のノウハウを熟知していますから、ピープルアナリティクスを実践していく上でのハードルはそれほど高くないと思います。しかしながら、アメリカ全体でピープルアナリティクスを実践・活用できているのは全体の6%くらいといった統計データもあります。

こう考えると、HRテックの導入に正直遅れをとっている日本の現状において、いきなりピープルアナリティクスを駆使した新しい人事マネジメントというのは如何にも飛躍しすぎという感があります。

 

それでは、世界の人事トレンドを踏まえて、今、日本の企業が行うべきことは、何か?ということになると思います。

それは「人事の専門職化」であると思います。

人事の仕事を現場だけで経験や勘で学んでいくには範囲が限られる、時間がかかるなどリスクが高く、人事の専門家になるのは容易ではありません。
しかしながら人事の知識というのは世界的に基準となる考えが既に存在しているものですので、効率的に、また効果的に学ぶ必要があると思います。

 

また専門知識の重要な骨子は、正しい専門用語をきちんと理解し、適切に使えるということです。

グローバルに事業展開をしている企業でまさに本日のテーマである「勝てるグローバル人事」であれば尚更です。英語でグローバル人事をマネジメントしていくにあたり、英語で正しいHRの専門用語を1語いうだけで流暢な英語での説明はいらないくらいの効力がありますので。

 

また、経営会議で人事の専門用語を共有して人事戦略を語って行くことも重要であり、それをリードするのは人事プロフェッショナルです。

先日アメリカで行われたアマゾンの創立者ジェフベゾス氏のインタビューをみていました、ジェフさんはアマゾンを始める前に勤務していたヘッジファンドで「自分はそこで、ビジネスに関わる重要なことHRや人の採用について学んだ」と語っていました。そういったことからも人事の知識は経営者にとって重要です。

もちろん、コロナ渦は全世界のすべての生活、すべての職場に変化をもたらし、それは人事にトレンドにも及んでいます。

 

人事のトレンドというよりグローバルビジネスは今、より「人」を大切にするという方向に向かっています。

考えてみますと、職場での共感というのは元来日本企業が大切にしてきていることではないでしょうか?そこにアメリカをはじめとする世界の企業は今気づいて、注目しているのです。

日本の人事も立ち遅れいる部分は海外から取り入れて補填する。日本の良いところは海外に打ち出していくという姿勢が大切だと思います。それが結果的には日本企業のグローバルで戦う強み、人事戦略の強みになると思います。

グローバルビジネスで注目を浴びたキーワードについて教えてください。

華園)
10年前:Accountability (説明責任)―ファイナンス領域
 5年前:Agility(機敏)― 営業領域
 現在 :Empathy(共感)― 人事領域

リーマンショックと日本で言われるファイナンシャル・クライシス後のキーワードは説明責任であり、組織の中ではファイナンスの領域でした。それから世界中で好景気となった約5年前には機敏(アジリティー)がキーワードとなって、多くの国、組織が、どんどん売って、どんどん買って、もっと世界のマーケットに出ようと盛んに動き回っていました。これは営業の領域です。そして現在コロナ禍では、共感の必要性が多く語られていて、まさにこれは人事の領域です。

日本企業が取り組むべき人事とは?

・日本においてもジョブ型人事への移行が叫ばれはじめ、人事制度の見直しや新卒採用や終身雇用の柔軟化が進んできていますが、世界の中での先端人事から学ぶべきことはありますでしょうか
・グローバル企業において、現地人の登用が進んでいると聞きます。その実態と現地人と一体となった企業体を築いていく際の人事の役割を教えていただけますでしょうか

華園)ちなみに余談ですが、世界に「ジョブ型人事」という言葉ありませんので。。
ジョブ型人事を海外の人に伝えようと英語で一生懸命しても伝わらないと思います。というかそもそもジョブベースでの雇用が全てなので。。。

無理して翻訳したり、説明しなくとも普通に人事の話題としてお話しすればいいと思います。むしろ、日本の終身雇用制度からのシフトに基づいて直面している人事のチャレンジという説明の方が通じやすいと思います。

余談はさておきそれでは、世界の先端人事から学ぶべきこと、に移りましょう。

 

GAFAの中で例えば、働きやすい企業No.1と言われるGoogleを見てみましょう。

年間の応募者が300万人と言われ、その中から雇用されるのは0.2%と言われています。このように、雇用する側が圧倒的に有利で黙っていても優秀な人材が世界中から集まってきます。

このようなGoogleですが、「従業員の幸福の追求」を大事にしている。つまりこれはGoogleの「人事哲学」と言えます。そこから「人事戦略」を落とし込み、「人事の数字(ピープルアナリティクス)」と私が先ほどいった人事の3つの重要なことをきちんと押さえていることです。

 

また、日本以外の国では大学で人事を学ぶ学科があるくらい、人事の専門知識を学んで取得するのは人事、経営に携わる人にとって普通のことです。
それは、あなたがファイナンスの仕事に就こうとしたり、マネージャー以上を目指すとき、必ず財務諸表の読み方について学ぶのと同じことだと思うのです。財務諸表の読めないCFO、CEO、どうでしょう。財務諸表を読まないで行う経営。「危ない」ですよね。

人事の知識がないというのはそれと同じことで、特にこれからのグローバルなビジネス環境のもとでは危険な経営と言えます。

 

グローバル企業では、もちろん現地で採用する比率が高いですね。日本以外の国では、人事は専門職という認識がありますから、社員も当然人事に専門性を求めます。また、雇用流動性が高い市場においては、先ほどのGoogleのように、超人気企業であっても、「従業員の幸福の追求」すなわち入社後の満足度がとても大事なのです。ですから、人事は先頭に立ち社員の満足度を上げるために努力します。日本の一般的なアプローチ「人事は管理する側」「社員は管理される側」といったメンタリティーがあるとしたらそれは最初に変えるべきものだと思います。人事にとって社員はカスタマーである、というような姿勢がある意味必要になります。
また、人事の専門家であるべく知識を習得することが基本中の基本でしょう。

人事がこれからまず取り組むべき事は何でしょうか?

•人事制度や採用の見直しを図るには、社内のあらゆるステイクホルダーから理解と協力を引き出し、巻き込んでいく必要があり、長い時間と労力を必要とすることになります。そんな中、会社を変えていくために人事の方がまず始めに取り組むべきことは何でしょうか

華園)ズバリいって、CEOに人事の重要性を理解していただき、経営戦略に人事戦略を取り入れてもらうことです。組織の変革は草の根運動では起こりません。

まず、ビジョンありきです。日本の組織の一つの特徴として、ビッグピクチャーをまず押さえないで、手法から入っていくケースが多いように思います。
しかしながら、チェンジマネジメントを行うときにはまず、「ビッグピクチャー、ビジョンありき」です。

「ビジョンを経営者が決める」
「明文化する」
「伝える」
まず、考え方、言葉から変えていくことが大事です。そこから、手法に落とし込んでいく。

ですから、人事の3つのことは「人事哲学」「人事戦略」「人事の数字」です。人事哲学すなわち、「どのような人材に会社に入ってもらい、居続けてもらいたいのか」を考え、定め、言葉に落とし込むことです。

そして最後に、人事の方に向けてのメッセージは、今人事の専門職が必要とされています。是非専門家として知識の習得。そして、資格の取得をしてください。ということです。
専門職資格は「パスポート」であると思っています。世界で認知されたパスポートも所持していれば、色々な国にスムーズに入国できます。それと同じように世界中の人と話すための国境は資格があれば容易に越えることできるのではないでしょうか。