なぜ人事の専門知識が必要なのか?(日本の人事と世界の人事)
伝統的な日本企業勤務を経験された多くの方は、日本企業の人事の在り方に様々な疑問を感じてこられたのではないでしょうか?
私自身日本企業2社(商社、自動車メーカー)にほぼ17年間勤めました。それぞれ評価される立場と同時に管理職として評価する立場を経験しました。その間仕事そのものの面白さとは別に、「人事」の観点からは大変居心地の悪い思いをしてきました。
その居心地の悪さはどこから来るのか長い間疑問でしたが、その後外資系企業に移りそこで実践されている「人事」の在り方を経験して、その居心地の悪さの拠って来るところが分かりました。
日本企業では仕事そのものとは直接関係ない要素での評価が必要以上に大きかったことに気付いたのです。
良い仕事をした、あるいは良い仕事が出来る能力があると判断されても、仕事とは別の要素での評価が悪ければ全体としては低評価にせざるを得ないことが多々あったのです。
その時の外資系企業では、「人(Person)ではなく仕事(Performance)を評価する」ことの重要性を強調され、そのやり方に目を開かせられたことを今でもよく思い出します。
人事の役割は人財を効果的・効率的に活用して組織の目標を達成させることにあります。
組織の目標達成のためには、人財が鍵であることは自明のことのように議論されていますが、その人財が人財としてどうしたら力を発揮できるかを知らなければ、効果的な人事は行いえないでしょう。私が感じていた疑問に納得いく回答を与えてくれる人事の関係者はその当時はいませんでした。企業が共同体的な存在で企業内の序列が年功的な運用になっている場合には、評価が仕事の成果よりもその序列を乱さない社員が評価される傾向があったことは否定できません。しかしそんな時でも評価の方法には様々なやり方があり、どうやったら社員がより力を発揮できるかの選択肢は多数あったはずです。人事の関係者がそれを知っていれば、それぞれのやり方の長所短所を勘案して、より良い選択肢を経営陣にも社員にも呈示できたはずです。最終的な結論は経営判断ということになりますが、少なくとも明確なプロセスを経ていれば納得感は高まり、企業の雰囲気は全く異なったものになったでしょう。
今行われているやり方が全てで、それを踏襲することだけが人事の仕事ではありません。人事の仕事もその役割を達成するために、その時々の環境に合わせ変わっていくべきです。
但しそのためには人事の仕事は何をすべきか、そのためにはどのような方法があるのかを人事のプロフェッショナルとして知っていることが必要です。人事の世界にも体系化された専門的な知識・スキルがあります。その専門知識・スキルを活用して、社員が前向きにより良い成果を生み出す方向で人事の仕事を進めることが、経営を支える人事としてこれからはますます求められています。
今日本は人口減少・高齢化・グローバル化・技術革新など労働環境を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。
さらにISO30414を契機として欧米を中心に人事情報の開示を義務化しつつあります。
人財は収益を生む資産であるとの視点から、企業の健全性・将来性判断の基準とする動きが加速化しているのです。
そんな中で過去伝統的な日本企業が進めてきた大量一括採用・終身雇用・年功序列などの日本的な経営スタイルは見直しを迫られています。海外からの人財を含め多様な人財をどう活用していくかは日本企業の一番弱いところですが、このような点が厳しく評価されることになります。経営戦略を考える上での人事の役割がますます重要になってきていると言えます。
今回SHRMのプログラムでは、世界共通の人事の基本的な考え方・枠組み・専門用語をお伝えして行く予定です。
人事制度あるいはその運用は企業それぞれ独自のものがあります。しかしそれらをより良いものにしていくには、世界的な標準と比べどのような違いがあり、それをさらに良くしていくにはどのようなアプローチがあるかなどを知っておく必要があります。
グローバル化が進展し企業が世界を股にかけ活動する現在、人事の仕事も日本の中だけの仕事に止まることはできません。科学の分野で日本の研究者が国際的に活躍されているように、人事の分野でも共通言語を身に着けることで世界の人事関係者とコミュニケーションを取りつつ、人事の発展に貢献することが期待されています。
人事が人事としての専門知識を深めつつ、率先して企業をより良い方向に引っ張っていける、そんな「カッコいい人事のプロフェッショナル」になって欲しいと考えています。
秋山 健一郎
一般社団法人 人事資格認定機構
理事・主席講師
株式会社 みのり経営研究所
代表取締役
コラムがアップされたらHRAI からメールが届く!メールマガジン会員登録お申し込みはこちら