「解説」ニューヨーク証券取引委員会(SEC)人的資本に関する開示義務化 - 人事資格認定機構-HRAI-

2020/12/16

「解説」ニューヨーク証券取引委員会(SEC)人的資本に関する開示義務化

はじめに

2020年8月、米国において人的資本の開示が義務化する規制が追加された。

以前からヒト・モノ・カネ・情報と言うように人的資本は企業経営において重要な要素であると考えられており、様々な利害関係者においても、その企業を評価・判断する上で、人的資本の情報は欠かせないものである。

米国で開示が求められる以上、遅かれ早かれ日本においても同じような開示が求められることが考えられ、日本企業においても今回の改定は重要なものと考えられる。

改定の内容

2020年8月26日にSecurities and Exchange CommissionはRegulation S-Kを改定することを発表した。

Regulation S-Kは財務諸表以外の定性的な情報に関する開示についての規制である。 当該改定において第101項(c)の中に下記の文が追加された。

(原文) “(ii) A description of the registrant’s human capital resources, including the number of persons employed by the registrant, and any human capital measures or objectives that the registrant focuses on in managing the business (such as, depending on the nature of the registrant’s business and workforce, measures or objectives that address the development, attraction and retention of personnel).”

(参考訳) 登録者(上場企業等)が雇用する人の数を含む登録者(上場企業等)の人的資本資源の説明、及び登録者(上場企業等)が事業を経営する上で重視する人的資本の施策又は目的(例えば、登録者(上場企業等)の事業および労働力の性質に応じて、人財の開発、企業自身の魅力および従業員の維持に対処する施策または目的など)。 従来からあった雇用する人の数に加え、人的資本に関する開示が求められるようになった。ただし、具体的な開示項目についての記載はなく、例示として、人財の開発、企業自身の魅力向上および従業員の維持という項目を挙げているのみである。また、「事業を経営する上で重視する」と記載がある通り、何を記載して何を記載しないかは企業の業種や規模などにより記載する事項は変わり、企業自身の判断によるところが大きい。開示項目や判断基準が不明確な中で2018年12月公表された国際規格「ISO30414:2018」は開示内容を検討する上で有用な拠り所になると考える。

誰に影響があるか

当該改定は米国の証券市場に関するものであるため、米国の証券市場の上場している日本の企業が対象になる。

米国の証券市場に上場している日本企業はそれほど多くないため、現時点において、日本企業への影響は限定的であると考える。

しかし、日本における外国人投資家の割合は過半数を超えており、当該改定と同様の開示が将来、日本の証券市場においても求められることは十分に考えられる。

日本における人的資本の開示

現在の有価証券報告書において、人的資本に関連する開示項目は、「従業員の状況」の中で従業員数、平均年齢、平均勤続年数及び平均年間給与を記載する項目がある。

企業によっては「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」や「事業等のリスク」にて従業員の意欲・能力の向上や人財の確保など記載している場合がある。

おわりに

現時点において、一部の企業を除き日本企業は早急な対応を求められることはない。

ただし、いずれ来ると考えられる日本においての人的資本開示拡充に備え、米国市場に上場している企業の人的資本に関する開示を今後注視していく必要があると考える。