トータルリワーズ とは?人的資本経営を支える報酬戦略とグローバル人事|日立最新事例も解説 

トータルリワーズ とは、給与や賞与だけでなく、福利厚生、働き方、キャリア開発、承認、組織で働く意義までを含めた「総報酬」の考え方です。人的資本経営が重視される現在、報酬は単なるコストではなく、組織の行動を変え、企業価値を高めるための重要な経営レバーとして捉え直されています。 

特に日本では、賃金水準の国際比較や円安の影響により、グローバル人財獲得競争における報酬競争力が課題になっています。その一方で、日本には法定福利厚生や法定外福利厚生を含む大きな価値があります。問題は、その価値が総報酬として十分に可視化されていない点です。 

本稿では、トータルリワーズの基本概念、日本企業が直面する課題、福利厚生をモネタリーバリュー化する意義、日立製作所の事例、さらにWorldatWorkに代表されるグローバル報酬専門性と人事資格の重要性について解説します。 

トータルリワーズ とは何か 

トータルリワーズは、従来の報酬制度をより広く、より戦略的に捉える概念です。一般的な報酬制度では、給与、賞与、手当、評価制度などが中心になります。しかし、トータルリワーズでは、それらに加えて福利厚生、柔軟な働き方、キャリア機会、学習支援、承認、組織への帰属意識といった非金銭的価値も含めて設計します。 

従来の報酬制度との違い 

従来の報酬制度は、給与テーブルや評価制度の運用といった「制度管理」にとどまることが少なくありませんでした。つまり、報酬は成果に応じて支払うもの、あるいは人件費として管理するものと考えられてきました。 

一方、トータルリワーズでは、報酬を経営戦略と接続します。どのような人財を惹きつけ、どのような行動を促し、どのような企業価値の創出につなげるのか。そこまでを設計する点が、従来型の報酬制度との大きな違いです。 

なぜ今 トータルリワーズ が重要なのか 

今、組織に求められているのは、単に給与水準を上げることではありません。限られた経営資源の中で、金銭報酬と非金銭報酬を組み合わせ、働く人にとっての価値を最大化することです。 

ここで重要なのは、報酬を「支払い」ではなく「投資」として捉える視点です。報酬は、組織のメッセージそのものです。何を評価し、何を大切にし、どのような行動を期待するのか。その意思が報酬設計に表れます。 

日本企業の報酬競争力が低下している理由 

日本企業は、グローバル市場において報酬競争力の低下という課題に直面しています。特に、優秀な人財が国境を越えて働く時代において、国内水準だけを基準にした報酬設計では、世界の人財市場で選ばれにくくなります。 

円安による影響 

円安が進行すると、日本国内では妥当と見える報酬であっても、外貨ベースでは相対的に価値が下がります。その結果、グローバル人財から見た日本の報酬水準は、実感以上に低く見える可能性があります。 

もちろん、報酬競争力は給与だけで決まりません。しかし、基本報酬の見え方が弱くなるほど、福利厚生やキャリア機会、働き方の価値を総合的に伝える必要性は高まります。 

グローバル人財獲得競争の激化 

さらに、優秀な人財は国や地域を越えてキャリアを選択するようになっています。そのため、組織は給与水準だけでなく、「ここで働くことでどのような価値が得られるのか」を明確に示す必要があります。 

この競争環境では、報酬、福利厚生、学習機会、キャリアパス、柔軟な働き方を一体化して伝えるトータルリワーズの発想が不可欠になります。 

日本企業の強みは福利厚生にある 

一方で、日本企業には見過ごされてきた大きな強みがあります。それが福利厚生の充実です。日本では社会保険制度や雇用保護が整備されており、さらに多くの組織では住宅手当、企業年金、健康支援、休暇制度などの法定外福利厚生も提供されています。 

福利厚生が評価されにくい理由 

しかしながら、これらの価値は十分に評価されていません。理由は明確です。給与は数字として比較しやすい一方、福利厚生は金銭的価値に換算されにくく、候補者や従業員に伝わりにくいからです。 

たとえば、社会保険、退職給付、健康支援、休暇制度、育児・介護支援などは、働く人にとって大きな価値があります。それにもかかわらず、総報酬として提示されなければ、単なる制度の一覧に見えてしまいます。 

モネタリーバリュー化の必要性 

そのため、日本企業が取り組むべきなのは、福利厚生をモネタリーバリューとして可視化することです。福利厚生を金銭価値に換算し、給与と合わせて総報酬として示すことで、日本企業が本来持っている価値をより正確に伝えることができます。 

これは単なる採用広報ではありません。人的資本経営において、自社が人にどのような投資をしているのかを示す重要な情報開示にもつながります。 

トータルリワーズ の具体的な構成要素 

グローバル標準の考え方では、トータルリワーズは複数の要素を統合して設計されます。代表的な構成要素は、報酬、福利厚生、働き方、キャリア開発、承認・意義です。 

  • 報酬:基本給、賞与、インセンティブ、株式報酬など、金銭的に支払われる価値です。 
  • 福利厚生:社会保険、退職給付、健康支援、休暇制度、住宅支援、育児・介護支援などを含みます。 
  • 働き方:リモートワーク、フレックスタイム、勤務場所の柔軟性、ワークライフバランスに関わる制度です。 
  • キャリア開発:研修、学習支援、リスキリング、国際経験、昇進機会、キャリアパス設計を含みます。 
  • 承認・意義:組織への貢献実感、承認文化、心理的安全性、Purposeへの共感など、非金銭的な価値です。 

これらを個別の制度として並べるだけでは、トータルリワーズとはいえません。重要なのは、組織の経営戦略、人財戦略、人的資本経営の方針と連動させ、一貫した価値として設計することです。 

トータルリワーズ の全体像

日立製作所に見る トータルリワーズ 戦略 

トータルリワーズを経営戦略と結びつける事例として、日立製作所の取り組みは参考になります。同社は、長期的な企業価値向上に向けて、従業員向け株式報酬制度の導入および株式購入プランのグローバル展開を開始すると発表しています。 

このような取り組みは、報酬を単なる処遇ではなく、企業価値創出と連動する仕組みとして設計するものです。従業員が組織の成長と自らの報酬価値を結びつけて捉えられる点で、人的資本経営とも親和性があります。 

同社は、報酬を経営戦略と連動させ、長期的な企業価値創出に紐づけています。また、その内容を積極的に開示することで、透明性と信頼性を高めています。

従来の日本企業との違い

しかし、多くの日本企業では報酬は依然として制度運用にとどまっています。日立のように経営と完全に連動しているケースはまだ限定的です。

多くの日本企業では、報酬は依然として制度運用の範囲にとどまっています。しかし、グローバル企業では、報酬制度そのものが経営戦略、投資家への説明、従業員エンゲージメント、人財獲得力と密接に関わります。 

日立のように、報酬を長期的な企業価値と結びつけ、グローバルに展開する視点は、日本企業が今後進むべき方向性を示しています。 

グローバル報酬設計と開示

さらに、株式報酬の導入やグローバルでの統一設計など、国際基準に沿った取り組みは、日本企業が進むべき方向性を示しています。

参考: 2026年3月23日 日立、長期的な企業価値向上に向けて、従業員向け株式報酬制度の導入および株式購入プランのグローバル展開を開始 https://www.hitachi.com/ja-jp/press/articles/2026/03/0323d/

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従来の報酬制度と トータルリワーズ の比較

WorldatWorkに見るグローバル報酬専門性 

グローバルでは、トータルリワーズはすでに独立した専門領域として確立されています。特にWorldatWorkは、報酬、福利厚生、トータルリワーズ領域における世界的な専門機関として知られています。 

同機関は、認定資格や教育プログラムを通じて、報酬専門領域の知識体系と実務基準を提供しています。これは、トータルリワーズが単なる制度運用ではなく、経営、財務、人財戦略、ピープル分析を横断する専門領域であることを示しています。 

公式サイト:https://worldatwork.org/ 

トータルリワーズ は専門領域である

つまり、トータルリワーズは単なる制度運用の知識ではなく、経営戦略、財務視点、ピープルアナリティクスを横断する高度な専門領域です。

さらには、これからのグローバル人事に求められているのは、報酬設計を通じて組織行動を変え、企業価値に影響を与えるためには、体系的かつ構造的なグローバル人的資本経営の戦略の中核として、トータルリワーズを設計し、運用していくKS As(知識・スキル・能力)です。

したがって、経験や属人的な知識だけでは、グローバル水準での実務遂行は困難になりつつあります。

人事資格が必要とされる理由 

トータルリワーズは、独学だけで十分に実務化できるほど単純な領域ではありません。なぜなら、報酬設計には、グローバル市場水準、各国の法制度、税務、財務、組織文化、データ分析、人的資本経営との接続が関わるからです。 

さらに重要なのは、報酬制度を「なぜこの設計なのか」「企業価値にどう貢献するのか」という言葉で経営に説明できることです。この説明力こそ、これからのグローバル人事に求められる専門性です。 

独学では限界がある理由

つまり、トータルリワーズは独学で習得できるほど単純な領域ではありません。

なぜなら、この分野はグローバル基準、報酬設計、財務視点、データ分析、そして経営戦略との接続という、複数の専門領域が交差する高度な知識体系だからです。

さらに、最も重要なのは「知っていること」ではなく、“経営に対して説明できること”です。

つまり、報酬を設計するだけでなく、「なぜこの設計なのか」「企業価値にどう貢献するのか」、そういったことを言語化できなければ、グローバル人事としての役割は果たせません。

このレベルに到達するためには、体系化された学習と実践的なトレーニングが不可欠です。

GHR-Pで学ぶグローバル人事と トータルリワーズ 

日本において、トータルリワーズを含むグローバル人事を体系的に学ぶプログラムとして位置づけられるのが、人事国際教育プログラム GHR-P™です。GHR-P™では、報酬戦略、人的資本経営、ピープル分析、グローバル人事の基礎を、実務に接続できる形で学びます。 

特に、日本企業の強みである福利厚生を、どのようにモネタリーバリューとして再定義し、グローバルに通用するトータルリワーズとして提示するかは、今後の人事にとって重要なテーマです。 

人事国際教育プログラム GHR-P™ 公式ページ:https://www.ghrjapan.org/ghrp 

GHR-Professional™を取得する意義 

人事国際資格 GHR-Professional™は、単なる知識の証明ではありません。国境を越えた人事課題について、共通言語を持ち、対等に議論し、経営に説明するための専門性を示す資格です。 

資格取得後も、継続的な学習とグローバル人事ネットワークを通じて、最新の人事トレンド、各国の報酬・制度動向、実務に直結する知見をアップデートできることが重要です。 

GHR-P Advanceで深める人的資本ROIと報酬戦略 

さらに上級段階として位置づけられるのが、[上級]人事国際教育プログラム GHR-P Advance™です。本プログラムでは、トータルリワーズを含む人的資本施策を、制度としてではなく、経営戦略として設計し、提案する力を養います。 

特に重視されるのは、人的資本施策を投資として捉え、ROIの視点から説明する力です。報酬、学習、エンゲージメント、組織開発などの施策を、どのように企業価値に接続するのか。この視点を持つことで、人事は制度運用者から、経営の意思決定に影響を与える存在へと進化します。 

[上級]人事国際教育プログラム GHR-P Advance™ 公式ページ:https://www.ghrjapan.org/advance 

GHR-ProAdvance™を取得する意義 

GHR-ProAdvance™は、グローバル人的資本リーダーとして、経営に提案し、組織課題を人的資本の視点から解決する力を示す上級資格です。知識を理解するだけではなく、実際の組織課題を捉え、戦略として構想し、提案書として言語化する力が求められます。 

まとめ:トータルリワーズ は企業価値を創出する戦略インフラ 

本稿で見てきたように、日本企業における報酬の課題は、単なる金額水準の問題ではありません。むしろ重要なのは、自社が提供している価値をどのように定義し、どのように伝えるかという問題です。 

円安やグローバル人財獲得競争の中で、給与だけで世界と競争することには限界があります。しかし、日本企業には、福利厚生、雇用の安定性、学習機会、組織文化といった多様な価値があります。それらをトータルリワーズとして再定義し、モネタリーバリューとして可視化することが、今後の競争力につながります。 

したがって、トータルリワーズは単なる人事制度ではなく、企業価値を創出する戦略インフラです。これからのグローバル人事には、報酬を支払いとして管理するのではなく、人的資本への投資として設計し、経営に説明できる専門性が求められます。 

その転換を実現できるかどうかが、日本企業の人的資本経営を次のステージへ進める重要な分岐点となるでしょう。 

トータルリワーズ を体系的に学びたい方へ 

グローバル人事に必要な報酬戦略、人的資本経営、ピープル分析を体系的に学ぶには、人事国際教育プログラム GHR-P™ が有効です。さらに、人的資本施策を経営戦略・ROIの視点から設計したい方には、GHR-P Advance™ が次のステージとなります。 

GHR-P™ 詳細:https://www.ghrjapan.org/ghrp 
GHR-P Advance™ 詳細:https://www.ghrjapan.org/advance 
GHR-ACADEMY™ 詳細:https://hr-ai.org/

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華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

トータルリワーズとは?人的資本経営を支える報酬戦略とグローバル人事|日立最新事例も解説

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