DE&Iは経営リスク:日本企業がグアムでDEI違反の罰金とトランプ大統領令考える~アメリカのDE&Iの原点 

2025年3月、アメリカ合衆国雇用機会均等委員会(EEOC)は、グアムの大手ホテル・リゾート「レオパレスリゾート」が、アメリカ出身を含む非日本人従業員に対して、日本人従業員と同等またはそれ以上の職位でありながら、不利な賃金・福利厚生・雇用条件を提供していたとして、140万ドル(約2億円)超の和解金支払いに合意したと発表しました。 

この事例は、日本企業の多くにとって決して“対岸の火事”ではありません。むしろ、海外拠点を持つ日本企業の「人事と制度運用」に潜むリスクが、今まさに国際的な法と倫理の基準で問われていることを示しています。 

トランプ政権のDE&I廃止命令と、揺るがぬアメリカの本質 

2025年1月、トランプ大統領は「Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity(違法な差別の終結と実力主義の回復)」と題し、連邦政府のDE&I施策を廃止する大統領令を発令しました。 
 

これをきっかけに、一部では「DE&Iは時代遅れ」「撤廃される方向にある」といった誤解が生じています。 

しかし、DE&Iはアメリカにおいて1964年の公民権法制定以降、半世紀以上にわたり社会の根幹を支えてきた理念であり、法的基盤として今日も変わらず生き続けています。 

連邦政府が一時的に方針を変えたとしても、EEOCや州レベルの機関、民間企業や社会の側では、今もDE&Iへの取り組みが積極的に続いています。「一過性の政権政策」と「制度としての社会的土台」は、切り分けて理解する必要があります。 

日本企業にとっての“自分ごと”とは何か 

今回のグアムの事例は、あくまでも「現地従業員への不平等な待遇」が指摘されたものであり、「外国人労働者全体への偏見」や「制度的なバイアス」が根本にあると見られています。 

アメリカに現地法人を持つ日本企業で、構造的に以下の慣習を踏襲している場合、経営課題として早急な検討と改善が必要かもしれません。 

  • 日本人駐在員と現地スタッフとの賃金・昇進・待遇格差 
  • 現地法人での人材評価制度が本社基準のまま運用されている 
  • 現地従業員が管理職や意思決定層にアクセスできない構造 

これらは、現地の労働環境や文化、法規制と乖離した人事運用の結果であり、無意識のうちに不公平を生んでいる可能性があるのです。 

■ DE&Iは「理念」から「ガバナンス」へ 

DE&Iは単なる“よい取り組み”ではなく、企業の持続可能性と信頼性を左右する経営の一部です。 
 

日本企業に求められているのはDE&Iの理念を掲げるだけに留まらず、以下のような実質的な対応です: 

  • ガバナンスとリスクマネジメントの一環としてのDE&I戦略 
  • 人的資本情報開示の文脈におけるグローバル一貫性 
  • 現地の従業員が感じる「透明性・公正さ」に基づく制度設計 
  • 無意識バイアスへの継続的な教育と対話機会の提供 
  • 客観的な人財データによるピープルアナリティクスの活用 

■ HRAIが強調する「グローバル人事に求められる視点」 

HRAIでは、人事とは経営の一翼を担う専門領域であり、グローバル経営においては法律・文化・倫理の枠組みを統合する知識と実践が必要であると考えています。 
 

本件のような事例は、経営陣と人事機能が連携してガバナンスを強化し、 各国の現状を理解し、人事制度に反映させていく必要性を再確認させるものです。 

まとめ 

グアムの事例は、海外で活動する日本企業にも起こりうるDE&Iリスクを浮き彫りにしました。 
トランプ政権のDE&I廃止命令があっても、アメリカ社会の根幹には今も公平の原則が息づいています。 DE&Iは制度だけでなく、現場での実行と意識が問われる時代に入っています。 
世界がこれほど繋がっている現在においては、グローバル人事の実践と国際的な人事ネットワークの活用が、今こそ求められています。 

人事制度を整えたつもりでも、運用や意識の部分で不公平が残っていれば、それは将来的に訴訟やレピュテーションの低下といった形で表面化する可能性があります。また、今回の例のように実質的な罰則が課される場合があります。 

DE&Iは「やるか、やらないか」の時代ではなく、“どう実装し、実行し、DE&Iを体現するか、の段階に入っています。 

 
HRAIは、これからも人事・経営の専門機関として、グローバル人事に求められる知識と実践の普及を通じ、企業の持続可能な成長に貢献してまいります。 

華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

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