米国 の従業員がメンタルヘルス危機に直面したら― 米国 人事・雇用主が押さえる8つの実務対応

「HRAI編集部より|米国拠点の従業員のメンタルヘルス危機に備える」

米国 人事で、従業員の突然の欠勤や業務遂行の変化など、メンタルヘルス上の深刻な懸念が生じたとき、日本本社と現地の人事・管理職には、どのような対応が求められるのでしょうか。本稿では、Fisher Phillipsの弁護士が、緊急時の対応に続き、休暇・合理的配慮、従業員支援プログラム(EAP)、秘密保持、復職支援など、8つの実務ポイントを解説します。米国の法制度と支援窓口を対象とする内容です。 

米国における従業員のメンタルヘルス危機と人事・管理職の役割 

従業員が出社しなくなったり、「もう続けられない」といった発言をしたり、勤務時間中に正常に業務ができていないように見える場合、管理職や人事担当者はどう対応すべきか戸惑うことがあります。しかし、事前の計画や研修、必要な体制や支援を整えておくことで、従業員を支援しながら、法的義務や安全確保、事業上の要請にも対応することが可能です。雇用主は必ずしもメンタルヘルスの専門家ではありませんが、警告サインを見極め、従業員を適切な支援につなぐうえで重要な役割を果たすことができます。以下では、深刻かつデリケートな状況に対して管理職や人事担当者が迅速に対応するための8つの実務的なステップと、あわせて留意すべき主な法的ポイントを紹介します。

緊急時には直ちに通報を

  • 何よりもまず、従業員が差し迫った自傷の意思を示した場合など、緊急時には911(緊急通報)に通報してください。
  • また、米国の自殺・危機ホットラインである988の利用を従業員に促すことも検討してください。
  • 従業員の安全について具体的な懸念がある場合には、自社の方針や法的助言を踏まえ、所轄当局に安否確認を依頼することも検討してください。

1. 警告サインを見極めるための管理職・従業員向け研修を実施する

従業員の行動の変化に最初に気づくのは、多くの場合、管理職や同僚です。頻繁な欠勤、業務遂行能力の低下、周囲との関わりの減少、あるいは「もう続けられない」といった発言や、自傷を示唆する言動に注意してください。

具体的な対応策

  • 管理職には、声かけの具体例を含む対応の手引きを提供してください。例:「最近、少し大変そうに見えますが、調子はいかがですか?」といった声かけが考えられます。全米精神疾患者家族会(NAMI)は、相手に寄り添い、決めつけない姿勢が重要であるとしています。
  • 従業員および管理職には、自らだけで状況に対応しようとせず、組織の危機対応および職場暴力防止手順に従うように周知してください。問題の兆候に気づいた場合には、速やかに上長または人事に報告することが重要です。
  • また、管理職および人事担当者は、従業員のプライバシーを尊重し、具体的な診断名や治療内容、その他不必要な医療情報を求めてはならないことを周知してください。

2. 明確な社内対応手順を整備する

職場で危機が発生した際の対応手順を明確にし、従業員に周知しておくことで、一貫性のある安全な対応が可能になります。

さらに、従業員の行動が他者の安全にリスクを及ぼすおそれがある場合の対応手順を含む「職場暴力防止計画」の策定を推奨します。なお、以下の点に留意してください。

  • カリフォルニア州では、ほぼすべての雇用主に対して職場暴力防止計画の策定が義務付けられており、その中には職場暴力の緊急事態の発生や場所、性質について従業員に知らせる手順を含めることが求められています。
  • これに対し、その他の州においては、労働安全衛生法の一般的義務条項に基づき、雇用主には安全な職場環境を維持することが求められます。
  • また、法令の執行にあたっては、労働安全衛生局(OSHA)は通常、雇用主が重大なリスクを認識していた、または認識すべきであったにもかかわらず、適切な対応を取らなかったかどうかを確認します。一方で、雇用主は、障害者差別禁止法およびプライバシー関連法に基づく守秘義務とのバランスを取る必要があります。
  • このように複雑なコンプライアンス上の論点が伴う場合には、早い段階で弁護士に相談することが、リスクの低減につながります。

具体的な対応策

以下の事項を明記した手順を整備することを推奨します。

  • 危機発生時に、従業員が社内で最初に連絡すべき窓口。
  • 緊急サービス(911)に通報すべき場面。
  • 988(自殺・危機ホットライン)などの危機対応相談窓口の利用が適切となる場面。
  • 弁護士へ連絡すべき場面。

管理職に対しては、これらの手順について定期的に研修を行い、事案が発生した際に適切な対応手順をすぐに思い出せるようにしておいてください。

3. 米国障害者法および家族・医療休暇法上の論点を検討する

従業員のメンタルヘルスに対応する際には、米国障害者法(ADA)、家族・医療休暇法(FMLA)、およびこれらに類似する州法の適用について検討する必要があります。主な留意点は以下のとおりです。

  • メンタルヘルス上の不調がある従業員は、休暇の付与、追加の休憩、勤務スケジュールの調整など、合理的配慮の対象となる場合があります。雇用主は、どのような合理的配慮が可能かを特定するため、従業員との間で双方向の「対話的プロセス」を行う必要があります。
  • 特定のメンタルヘルス上の状態は、特に入院治療や継続的な医療行為を伴う場合、家族・医療休暇法上の「重大な健康状態」に該当することがあります。
  • また、州の休暇関連法や障害関連法、短期障害給付制度など、追加的な法令や制度も適用される可能性があることにも留意してください。

具体的な対応策

  • 従業員の危機が出勤状況や業務遂行に影響を及ぼしている場合には、人事は休暇の付与やその他の職場での合理的配慮が必要かどうかを検討してください。
  • 従業員が健康上の理由で業務の遂行に困難を抱えていると述べた場合、管理職が人事に連絡するよう周知してください。
  • 休暇や合理的配慮の検討にあたり医療情報を求める場合には、適用される連邦法および州法に従い、機能的な制限や想定される就業上の制約の範囲に限定してください。

4. 原因不明の欠勤には慎重に対応する

無断欠勤や長期の欠勤は、雇用契約終了(解雇)の正当な理由となる場合がありますが、同時に従業員の危機の兆候である可能性もあります。

  • 雇用主は、一貫した出勤規程を維持しつつ、法的保護や社内規程の適用状況を踏まえ、当該欠勤を正当なものとして扱うかどうかを人事が判断できる体制を整える必要があります。
  • 多くの企業では、欠勤にあたり合理的な事前連絡を求める規程を設けており、無断欠勤が3日間続いた場合には自己都合退職とみなすことがあります(ただし、州法でより長い通知期間が求められる場合を除きます)。このような規程自体は一般に許容されていますが、家族・医療休暇法に基づく休暇、米国障害者法に基づく合理的配慮、その他の休暇に関する権利が適用される可能性について、人事が検討できる余地を残しておくことが重要です。

具体的な対応策

  • 業務上の必要性、法的保護、および健康状態の可能性のバランスを考慮した、公平かつ一貫した無断欠勤対応プロセスを整備してください。
  • この分野における方針および手順の策定にあたっては、経験豊富な弁護士と連携してください。

5. 薬物使用に関する懸念には「安全」を軸に対応する

薬物使用障害はメンタルヘルス上の問題と関連することがあり、場合によっては米国障害者法および同等の州法上の「障害」に該当することがあります。一方で、雇用主には安全な職場を維持する義務があり、就業中に業務遂行能力が低下した状態の従業員を認める必要まではありません。したがって、薬物関連の規程においては、以下を明確に区別する必要があります。

  • 勤務中または勤務施設内における業務遂行能力の低下
  • 背景にある薬物使用障害
  • 処方薬の適法な使用
  • 治療プログラムや回復支援プログラムへの参加

具体的な対応策

  • 管理職に対しては、医学的な状態を推測するのではなく、観察可能な職場での行動(危険な機械操作や明らかな能力低下の兆候など)に焦点を当てるよう研修してください。
  • 管理職および監督者は、危険な作業を直ちに中止させるべき場面を理解するとともに、その後の対応について人事や法務担当者など誰に連絡すべきかを把握しておく必要があります。安全は最優先ですが、同時に憶測による判断は避けることが重要です。
  • 雇用主は、治療のための休暇付与、必要に応じた復職合意書の活用、法令に適合した薬物検査の実施など、回復を支援する取り組みの導入を検討できます。

6. 従業員支援プログラムを活用する

従業員支援プログラム(EAP)は、守秘義務を伴うカウンセリングや外部サービスへの紹介など、さまざまな支援を提供することができます。効果的な従業員支援プログラムは、職場におけるメンタルヘルス支援体制の基盤となり得ます。

具体的な対応策

  • 従業員支援プログラムを、従業員およびその家族が任意かつ秘密裏に利用できるリソースとして積極的に周知してください。
  • 利用にあたっての保護内容および制約について、明確に説明してください。
  • 復職合意書の一部として従業員支援プログラムへの参加を義務付ける場合には、各種雇用関連法令上の懸念が生じる可能性があるため、事前に弁護士へ相談してください。

7. 秘密保持を尊重しつつ、過度な約束はしない

メンタルヘルスを含む従業員の医療情報には、秘密保持に関する義務が適用されます。また、医療情報は人事ファイルとは別に保管する必要があります。

もっとも、従業員が自らまたは同僚の状態について懸念を申し出る際に秘密保持を求めた場合であっても、完全な秘密保持を約束すべきではありません。必要に応じて、社内の適切な関係者や外部の支援機関、緊急対応機関に対し、「必要な範囲で」重要な情報を共有する必要があるためです。

具体的な対応策

以下の点を踏まえた方針および運用を徹底してください。

  • 業務上知る必要のない従業員に対し、健康状態に関する情報を開示しないこと。
  • 共有する情報は、業務内容や担当の調整、一時的な代替対応など、必要最小限にとどめること。
  • 職場における噂話を抑制し、従業員のプライバシーを保護すること。

8. 復職および復職後の継続的サポートを計画する

メンタルヘルスに関連する休暇から復職した従業員は、職場復帰に適応するにあたり、追加の支援を必要とすることが少なくありません。

具体的な対応策

  • 復職手順を見直し、必要に応じて、就業適性の確認や勤務スケジュールの調整、その他の合理的配慮の取り扱いについて検討してください。
  • 復職後の最初の数週間は、期待される業務内容の確認や支援を行うため、定期的に面談の機会を設けてください。

👉職場におけるメンタルヘルスへの理解について、さらに詳しい情報は、こちらの総合ガイドをご参照ください

まとめ

Fisher Phillips法律事務所の担当弁護士は、こうした困難な局面に向けた備えや対応を支援することができます。ご不明な点がある場合は、本稿の執筆者、または貴社の担当のFisher Phillips弁護士までお問い合わせください。また、最新情報をメールで受け取るため、Fisher Phillipsの情報配信サービスへの登録をご検討ください。

原文:https://www.fisherphillips.com/en/insights/insights/when-employees-are-in-crisis-a-practical-resource-to-guide-employers

PROFILE

Nicole Kamm, Fisher Phillips法律事務所 パートナー(カリフォルニア州ロサンゼルス市)
Jacklin Rad, Fisher Phillips法律事務所 パートナー(カリフォルニア州ロサンゼルス市)
Andrew J. Sommer, Fisher Phillips法律事務所 パートナー(カリフォルニア州ロサンゼルス市)

グローバル人事の学びと実践をつなぐ GHR-ACADEMY™とHRAI

海外拠点の従業員を支えるには、各国の法制度や雇用慣行を理解し、現地の人事・専門家と連携して対応する力が求められます。今回取り上げたメンタルヘルス危機への対応も、グローバル人事に必要な専門性の一つです。

人事資格認定機構(HRAI)が展開するGHR-ACADEMY™では、人事国際教育プログラム「GHR-P™」をはじめ、グローバルHRBP「GHR-HRBP™」、ピープルアナリティクス「GHR-PA ™」など、人事の専門知識を実務につなげる学習機会を提供しています。

日本語・英語・バイリンガルの各種講座や企業・組織向け研修を通じて、国境を越えて活躍する人事プロフェッショナルの育成を支援しています。

HRAIは「人事で繋ぐ、日本と世界」を掲げ、世界人事会議の開催、GHR-CONNECTIONTMを通じた交流、海外の人事専門家・団体との連携、日英のコラムやHRAI Bulletinによる情報発信にも取り組んでいます。世界の人事実務に学び、経験を共有し、自社の課題への対応に生かす。その学びと交流の場に、ぜひご参加ください。

26GHR-Tokyo第四回世界人事会議には、本稿の寄稿元であるフィッシャー・フィリップス(Fisher Phillips)も登壇します。会議の詳細は、こちらをご覧ください。https://www.ghrjapan.org/26ghr

GHR-ACADEMY™の講座・プログラムを見る https://www.ghrjapan.org/ghrp
HRAIの活動・グローバル人事情報を見る https://hr-ai.org/

米国における8つの実務対応ポイント 

従業員が危機に直面したとき、人事・雇用主はどう対応するか
米国の従業員がメンタルヘルス危機に直面したら―人事・雇用主が押さえる8つの実務対応

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!