HRAIコラム:ジョブ型は目的ではなく手段である ― 二冊の新刊を通じて見えた真実

近年、日本企業において「ジョブ型人事」の導入や「グローバル人事機能」の新設が盛んに進められています。しかし、その理解や運用をめぐっては多くの誤解があり、導入した企業からは「思ったように機能しない」「現場が混乱した」といった声が後を絶ちません。
HRAIではこれまで、ジョブ型をテーマにしたセミナーや講義、さらには「グロービス学び放題」でのEラーニングコンテンツ提供を通じて、多くの受講者から反響をいただいてきました。そのコメントから見えてきたのは次のような実態です。
漠然とした不安:「導入は必要だと感じるが、自社で本当に機能するのか分からない」「評価や報酬と結びつくのか不安」
理解が不十分なままの運用:「ジョブディスクリプションを書けばジョブ型になる」と誤解し、制度だけが先行して現場が混乱
現場とのギャップ:「目的と手段が逆転している」「人事だけで回し、社員が納得していない」
こうした声に共通するのは、ジョブ型はあくまで手段であり、目的ではないという事実です。人事制度を導入すること自体がゴールではなく、組織戦略や人財活用のための“方法”であるべきなのです。

失敗事例
ある大手メーカーは「海外で流行しているから」という理由でジョブ型を導入しました。しかしジョブディスクリプションを形だけで整備し、業務実態やスキル定義と合致せず、評価や報酬に結びつかないまま形骸化。社員の不満が高まり、離職率が上昇しました。
成功事例
一方で、外資系と提携する日本企業は、ジョブ型を「グローバル人財戦略を実現する手段」として位置づけました。戦略と人財要件を明確化し、職務定義を現場と共に作成。評価基準と報酬制度を連動させ、社員が自分の役割を理解しやすくなった結果、専門性を活かした配置が進み、組織の透明性とモチベーションが向上しました。

二冊の新刊紹介
📕 日本語書籍『ジョブ型の7つの嘘と真実 ― あなたの会社でうまくいかない本当の原因』
日本独自の歴史的・文化的背景を踏まえ、なぜ制度が期待通りに機能しないのかを問い直します。代表的な成功例と失敗例に加え、現場で人事を担ってきた担当者の声を取り入れ、**“現場の真実”**に迫っています。
📘 英語書籍 Japanese HR – 7 Myths and Facts: Uncovering the ‘Job-Based’ Illusion in Japan’s HR System
海外読者に向けて、日本の人事制度が「ブラックボックス」と見られている現実を解説。国際基準との比較を通じて、日本のHRが海外からどのように理解されているのかを明らかにしています。
ペーパーバック: https://amzn.to/4nM1cp9
Kindle: https://amzn.to/3W70Ey1

日本の読者へのメッセージ
日本の読者にぜひお勧めしたいのは、この二冊をあわせて読むことです。日本語版で国内の課題と背景を理解し、英語版で「なぜ海外から日本の人事制度が理解されにくいのか」を知ることで、初めて立体的で複眼的な理解が可能になります。
HRAIは今後も、日本の人事制度に潜む「誤解の根源」と「見落とされがちな点」に光を当て、国内外の人事リーダーが建設的な議論を始めるきっかけを提供してまいります。

華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表