人事に嵐が来ている!STORM IS COMING FOR HR
嵐に向かう、バッファローの群れの映像が流れてきた。
嵐を集団で生き延びる術。
バッファローの大群は嵐の中心に向かって進んでいく。
ジョニーテイラー氏はSHRM24での講演テーマを「嵐」に決めていた。
2024年6月シカゴで開催された世界最大のHR会議「SHRM24」で行われた、SHRM CEO
ジョニーテイラー氏の基調講演でも取り上げられたテーマ
今、グローバルで同時に発生している「嵐」ついてお話ししていきたいと思います。
人事に嵐が来ている! その嵐は世界同時発生
“STORM IS COMING FOR HR” は、HR全般において差し迫る大きな変革や挑戦を示唆する強力なメッセージです。急速な技術革新、特にAIや自動化技術の進展、労働力の多様化、さらにはグローバルな競争や法規制の変化など、多くの外的要因がHRの在り方に劇的な変化をもたらす時代が来ていることを警告しています。
この嵐は、米国やどこかの国だけに起きていることではなく、世界同時に起きていることだということを日本にいる皆さんは特に意識すべきではないでしょうか。
STORMを理解する
STORMという言葉は、HRに押し寄せる様々な要因の頭文字としても表されます。
S
– Skills Gap (スキルギャップ)
技術革新が進む中で、必要とされるスキルが急速に変化しているため、従業員のスキルアップや再教育が重要になります。HRはこのギャップを埋めるために積極的に介入しなければなりません。
T
– Technology Disruption (技術の破壊的革新)
AI、自動化、デジタルトランスフォーメーションなどの技術は、従来の業務プロセスを根本から変える可能性があります。これに伴い、HRは労働力の再編成や新しい技術の導入に対応する必要があります。
O
– Organizational Change (組織変革)
新しいビジネスモデルや戦略が企業の内部構造を再定義する際、HRは組織文化の維持や変革管理を効果的に行う役割を果たします。
R
– Regulatory Pressure (規制圧力)
プライバシー保護や労働法の厳格化など、世界各地での規制の変化に対応する必要が高まっています。HRは法規制を遵守しつつ、柔軟かつ効率的な対応を求められます。
M
– Multigenerational Workforce (多世代の労働力)
ベビーブーマーからZ世代まで、異なる価値観や働き方を持つ世代が共存する職場では、HRは多様なニーズに応じた戦略を展開する必要があります。
HRの新たな役割と挑戦
この「嵐」に対応するため、HRは新たな役割を正しく理解し、迅速に行動を起こす必要があります。「嵐」を避ける、やり過ごす、という選択肢で組織が現在のグローバル競争で勝ち残っていけるだろうと考えることは、かなり現実離れした楽観主義ということになるでしょう。では、嵐の中に前進する上で、HRプロフェッショナルがすべき事は具体的に何なのか、を以下にまとめてみました。
1.スキルの再定義
テクノロジーの進化に伴い、既存のスキルセットでは不十分になることが多くなります。HRはリスキリングや継続的な教育プログラムを導入し、従業員が新しいスキルを獲得できるようサポートする必要があります。
2.技術導入の推進
AIや自動化ツールをHRプロセスに統合し、効率性と精度を向上させることが求められます。例えば、採用プロセスの自動化や、従業員エンゲージメントの向上に役立つデータ分析の活用です。
3.組織文化の再構築
変化が激しい時代において、柔軟で適応力のある組織文化を育てることが重要です。これには、オープンなコミュニケーション、チームワークの促進、リーダーシップの育成が含まれます。
4.法令遵守と倫理的なリーダーシップの強化
規制の変化に対応し、倫理的な枠組みの中でビジネスを推進するためのリーダーシップが求められます。HRは、企業の法令遵守を監督し、倫理的な問題を管理する役割を果たします。
5.多様な労働力の管理
多世代の労働力が共存する環境では、異なるニーズや期待に応えるための柔軟な戦略が必要です。個別のキャリア開発や柔軟な働き方の導入が有効です。
まとめ 日本のHRプロフェッショナルへのメッセージ
「STORM IS COMING FOR HR」という警告は、HRプロフェッショナルがこれまでの慣習にとらわれず、未来を見据えた積極的なアプローチを取る必要性をより強調しています。今日の激動の変革の時代において、HRが企業の成長を支える戦略的パートナーとしての役割を果たすためには、これらの課題に適切に対応し、未来に向けて革新を続けることが求められます。
この嵐は世界同時に起きていることを大前提として冒頭にお伝えしました。その嵐を前にして、日本独特のHRの特徴をいち早く改善する必要に迫られています。
その特徴とは、HRの専門職化が他国と比較して非常に遅れていることです。これは欧米諸国に比べてということではなく、例えばアフリカ・中東・東南アジアなどの国々と比べても非常に遅れている現実をまず認識しなければなりません。
日本のHRの専門職化が世界的にはもっとも遅れてしまった背景には、終身雇用や年功序列といった伝統的な労働文化や、HR部門の戦略的役割の不足、HR専門教育の未整備、そして変化への抵抗感が影響しています。
しかし、近年のグローバル化や技術革新の波により、HRの専門職化は必須の課題となっています。日本企業が国際的な競争力を維持するためには、HRが戦略的パートナーとしての役割を強化し、専門職としての成長を遂げる必要があります。
HRがこの嵐を乗り越え、より強靭で柔軟な職場を築くためには、今こそ行動を起こすべき時なのです。
HRの専門職化にまず必要なこと
全ての専門職には例外なく、専門知識を体系立てて学習する機会と社会的認知度の高い職業資格の存在があります。HRが既に専門職として確立している日本以外の国々では大学に人事専攻課程があり、社会で広く認知されている人事職業資格があります。
「日本の人事は独特だから」というお声をよく耳にします。果たして本当にそうでしょうか?私は自身でも30年以上日本の企業、グローバル企業のHR実務に携わってきました。その実務経験を踏まえ上で、SHRMエッセシャルズプログラムを学んだ上で、「HRにも世界基準の基礎があること」「日本のHRもその世界基準の中で、ある特定の手法、考え方が広く使われていること」「そして、世界の人事が日本のHRが現状維持を貫いていた30年間で大きくイノヴェーションを実現してきた事」を実感しました。
HRに国境はなく、HRは企業ごとに独特です。
また、逆説的にいうならば、企業ごとに独特でないHRには戦略がない、ということになるのではないでしょうか。
嵐に向かって前進していくには「人事戦略」が必要ではないでしょうか。
関連するコラム
華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表
コラムがアップされたらHRAI からメールが届く!メールマガジン会員登録お申し込みはこちら