「人事で繋ぐ、日本と世界 第三回世界人事会議」

「人事で繋ぐ、日本と世界 第三回世界人事会議」
第三回世界人事会議(25GHR Tokyo)から見えた、人事の未来を想像する〜AIとDE&Iの“次のステージ”
日本の人事は、いま世界から何を期待されているのか――。
2025年11月11日、東京・虎ノ門で開催した「第三回世界人事会議(25GHR Tokyo)」の基調講演会と記念晩餐会には、カンボジア金融庁(Financial Service Authority of Cambodia)の幹部代表団をはじめ、フィリピン、マレーシア、インド、シンガポール、オーストラリア、アメリカ、フランス、イギリスなど、官・民・学を越えた多様な顔ぶれが集まりました。日本からも、人事プロフェッショナルや経営幹部、国会議員、駐日ブルガリア大使、起業家、大学院教授、そして国際公式参加団の代表が一堂に会しました。
さらに今回は、渋谷女子インターナショナルスクールの選抜生徒も参加し、国・世代・文化を超えた“リアルなDE&I”の場が生まれたことも、この会議を象徴する出来事でした。
「なぜ日本を学びの場に選んだのか」が、世界の共感が会場で“腑に落ちる”
カンボジア金融庁オフィサー代表団の来日にあたり、事前のプレスリリースでは「人的資本の開発と活用を国家戦略に位置づけ、その学びの場として日本を選んだ」とお伝えしました。
当日、各国の代表団と対話を重ねるなかで、その理由が言葉ではなく「実感」として伝わってきました。
日本は長く、“人を大切にする”ヒューマンセントリックな人事を続けてきた国です。一方で、ジョブ型・スキル型への移行、人的資本経営、DE&Iの推進、そしてAIやピープルアナリティクスの導入といった変革にも正面から向き合い始めています。
第三回目を迎えた世界人事会議(GHR Tokyo)は、この「人を中心に据えた日本発の変革」を、各国の政策・企業・教育の文脈と重ね合わせながら、立体的に共有する“学び合いの場”として、徐々に世界から認知されつつあります。昨年は韓国警視庁幹部代表団を迎えましたが、今年は金融行政を担うカンボジア代表団が参加したことで、「人事と公共政策」「金融行政と人的資本」が一気につながり、議論はさらに一段深まりました。

デジタル人財育成は「国策」から「現場の実践」へ
最初のパネルディスカッションでは、駐日ブルガリア大使と日本の衆議院議員をお招きし、両国が推進するデジタル人財育成とAI戦略をテーマに議論しました。
日本からは、「GIGAスクール構想」や「DXハイスクール構想」に象徴される教育と産業・人事をつなぐ政策が紹介されました。ブルガリアからは、初等・中等教育段階からのSTEM教育徹底や、若年層へのプログラミング教育が「国家戦略」として位置づけられている事例が共有されました。
印象的だったのは、インド代表団からの質問です。
「若手だけでなく、シニア層のDXリカレント教育をどのように進めているのか」
この問いは、多くの国で共通する悩みでもあります。私自身、セッションのまとめとして、「政策として人財を育てる」だけでなく、「育った人財が活躍できる場を創ること」こそがグローバル人事の責務であるとお伝えしました。国が方向性を示し、民間が創意工夫で実装し、そこで得られた学びを再び政策にフィードバックしていく――この循環を設計するのが、これからの人事の役割だと強く感じています。

「流行」で終わらせないAI活用―人事が担うべき視点
Kenja株式会社 片木テッド氏による基調講演「流行から実行へ:AIが形づくる人事の未来」では、生成AIの可能性と限界が非常にわかりやすく整理されました。
AIを
- アシスタント(文章作成や要約)
- ワークフローに組み込まれたエージェント(オンボーディング、自動化された問い合わせ対応など)
- 自社ナレッジと連携するRAG型AI
と使い分けながら、評価コメント作成やHRポリシーチャットボット、オンボーディングの自動化といった具体的な事例が紹介されました。重要なのは、**「AIが決める」のではなく、「AIが支え、人が最終判断を下す」**という設計思想です。
同時に、セキュリティやプライバシー、正確性のリスクに対しては、ゼロトラスト、アクセス制御、多拠点コーパスによる“Multiple Brains”型の情報管理の有効性が語られました。
カンボジア金融庁からは、「金融行政においてフィンテック分野のAI活用をどう位置づけるか」が共有され、AIリテラシーがもはや「IT部門だけのテーマではない」ことを改めて実感しました。人事部門がAI活用のガバナンス設計やリテラシー教育の中心となる時代が、静かに、しかし確実に始まっています。

DE&Iの“現実”を語り合う――5世代が働く時代のデザイン
第二のパネルディスカッション「DE&Iの真実:世界各国の今とこれから」では、日本・フィリピン・マレーシアから、政治・企業・協会それぞれの立場の登壇者が集いました。
日本からは、女性リーダーシップを巡る政治の変化が、社会全体のDE&I議論に与える影響が語られました。フィリピンからは、歴史的には女性リーダーを数多く輩出し、多様性を受け入れてきた一方で、宗教や家族観などの伝統的価値観との狭間で、LGBTQ+やマイノリティ人財のインクルージョンに課題が残る現実が共有されました。マレーシアからは、多民族・多宗教国家ならではの「公平性と文化的配慮をどう両立させるか」という難題が率直に語られました。
モデレーターを務めたロッシェル・カップ氏は、近年の米国におけるDE&I政策の“揺り戻し”にも触れながら、各国の共通点と相違点を整理し、「DE&Iはスローガンではなく、組織の持続可能性とイノベーションの源泉である」というメッセージを投げかけました。
印象的だったのは、「歴史上初めて、5世代が同じ職場で働く時代をどうデザインするか」という問いです。質疑応答では、次世代を担うジェネレーション・アルファの育成事例として、渋谷インターナショナルスクールの先進的な取り組みが紹介され、世代を超えたDE&Iのあり方を巡る議論が深まりました。

記念晩餐会が映し出した「人事でつながる世界」
基調講演に引き続き開催された記念晩餐会では、各国代表団、登壇者、、日本の人事・経営リーダーが、着席ディナーを囲みながら国境を越えたネットワーキングを行いました。
日本の伝統楽器・三味線の演奏に、海外からの参加者が耳を傾ける姿は、「文化としての日本」と「ビジネスとしての日本」が同じテーブルに並ぶ瞬間でもありました。各テーブルでは、昼のセッションでの議論がさらに掘り下げられ、新たなコラボレーションや次年度に向けたアイデアが生まれていました。
HRAIが掲げる「人事で繋ぐ、日本と世界」というビジョンが、単なるスローガンではなく、一人ひとりの出会いと対話を通じて形になっていく―その瞬間を、まさに目の前で見ることのできた晩餐会でした。

カンボジア金融庁との対話が教えてくれたこと
カンボジア金融庁オフィサー代表団とは、金融行政の高度化やガバナンス強化に「人事の視点をどう組み込むか」について、多くの意見交換を行いました。
彼らが関心を寄せたのは、日本企業の終身雇用からジョブ型・スキル型への移行、自律的キャリア形成、公的機関における人財育成のあり方など、日本が直面してきた「構造変化の経験」でした。
私は、「人事は、国や産業を超えて“人の可能性を信じ、未来をともに創る”という共通の使命を持っている」とお伝えしました。
日本が“学び合いのハブ”として信頼されるのであれば、そこで得た知見を再び日本の人事に還元し、世界に開いていくことが、HRAIの責任であり、GHRコミュニティの役割だと感じています。

People-First × Data-Driven な人事へ
今回の世界人事会議を通じて、あらためて共有されたメッセージはシンプルです。
- AIリテラシーは、これからの人事に不可欠な基礎能力であること
- DE&Iはスローガンではなく、組織の持続可能性とイノベーションの源泉であること
- AI, HR DXとピープルアナリティクスは、「人を冷たく扱う仕組み」ではなく、“人を活かす意思決定”を支えるツールであること
- 公的機関も企業も、「人事を経営の中心に据えること」が国・産業の競争力を左右すること
これらは、HRAIが人事国際教育プログラムやGHR-Professional™資格を通じて発信してきた「People-First × Data-Driven」というメッセージそのものでもあります。

これからのHRAIのチャレンジ
世界人事会議は、基調講演と晩餐会で終わりではありません。翌日からのワークショップでは、AI・DE&I・人的資本経営をテーマに、各国の事例研究とグループディスカッションが続きました。その内容は、今後別途プレスリリースやレポートとして発信していく予定です。
HRAIは今後も、各国の政府機関・人事協会・教育機関・企業との連携を通じて、
- 人事国際教育プログラム(Global HR Education Program)と
人事国際資格 GHR-Professional™ の提供拡大
- GHRアカデミーの拡充
- AI・人的資本経営・人財育成プログラムの共同開発
- 世界人事会議(GHR Tokyo)を核とした、継続的な国際人事ネットワークの構築
を進めていきます。
「人事で繋ぐ、日本と世界」
25GHR Tokyoで交わされた対話と出会いを、皆さまと共に、これからの具体的なアクションへとつなげてまいりたいと思います。
本会議にご参加くださった皆様、スポンサーの皆様、ご登壇者の皆様、そして運営を支えてくださった関係者各位に、心より厚く御礼申し上げます。
第四回世界人事会議 26GHR Tokyoは、2026年11月11日〜13日に開催予定です。詳細は今後順次ご案内いたします。「人事で繋ぐ、日本と世界」というビジョンに共感くださる日本・世界の皆さまと、再びお目にかかれる日を楽しみにしております。

華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表