「メイクチェンジ」人事部長が社外出向を実現〜コロナ禍で社員活用を目指し
弊社では、現在、全正社員数の9%に当たる407名の正社員が社外の他企業に出向をしていますが、私が人事部長としてどのような想いでこの施策を行っているのかについてご紹介します。
1. 背景〜コロナ禍のリストラによる人件費削減は正義に欠く、という想い。
新型コロナウィルス感染症拡大によって多くの企業が影響を受けました。拡大初期には店舗休業の政府指示もあり、私の携帯電話にも、大手外食チェーンの人事部長など、以前から親しくさせてもらっている各方面から「休業手当率、どのくらいにする?」といった質問や入手している情報交換の希望が多く届きました。
弊社でも、多くの企業と同じく収益状況が悪化し、従業員からも不安の声が上がる中、経営層から人事部には人件費低減策の起案が求められました。しかしながら、従業員は大切な財産であり、この局面で従業員側に責任は無いのですから、正義のないリストラは早期に施策候補から消えました。(リストラの先に確実な復活シナリオが描けていたら、人事部長として選択していたかもしれませんが)。
その後、各方面から情報を収集し、「在籍型出向施策」による経費インパクトを試算。従業員の人財育成など様々な発展可能性を鑑み、弊社ではコロナ対策のメインの人事戦略とすることを判断し、現在に至ります。
2. 人事部長としての考え、アクション〜財政効果の可視化と4つのポリシーを設定
人事部長として経営層から「人件費低減策」の提言を求められていたわけですから、「在籍型出向施策」実行にはまず経営層の説得が必要でした。本業オペレーションをより少人数でまわるローコスト体質にしながら、在籍型出向を実施、助成金受給で総額人件費を低減していくという財務的効果を示すことで、1か月間の経営層との話し合いを経て2020年末に経営層の理解を得ました。
次に出向先企業様の開拓が必要なわけですが、当時はコロナ第3波で出社が制限される企業も多く、先方とのアポイントを取るだけでも苦労しました。また、出向先の開拓は容易には行かないとの覚悟もありましたので、まず、4つの出向先企業選定ポリシーを掲げました。
①出向した社員が他業種サービス業から学べること
②企業間のアライアンス構築
③出向した社員の技術習得(今後自社の様々な業務の内製化を可能とするスキル習得)
④新規事業可能性探索
①~④は実はコロナ前からやるべきことと思っていたもののなかなかできないことでしたので、コロナが背中を押してくれたと思っています。例えば、単純に従業員を他社の製造工場のライン作業に出向させて、人件費全額を負担してもらうやり方もあったのですが、それは選択しませんでした。4つの出向先企業選定ポリシーに反するからです。出向先開拓は、「人事部長からの意見交換のお願い」という文章を作成し、自社の出店部隊や産業雇用安定センター、自分の知人などを介して先方人事部長各位にアプローチを行いました。役員名でのアプローチでは面目の兼ね合いがあるので、人事部長が行うのがちょうどいいと思いました。東京を中心にコロナの真只中でしたので、私ひとりしか車両に乗っていないようなガラガラの新幹線で全国を交渉に走り回り、「こちらの人件費負担比率を上げてもいいので、出向する従業員には出来るだけ上位層へのチャレンジ機会をあげてほしい」という話など、50社程度の訪問企業様の状況に応じた交渉を行いました。現在407名の従業員が出向していますが、社内に残った従業員と違ってサポートしてくれる人たちが少ないので、私自身が出来る限り頑張っている出向者のところには出向いて面談し、コーチングし、先方企業の人事部に対して更なるチャレンジ機会を交渉しているところです。
この従業員サポートと出向先との交渉は人事部長だからできることで、すべきことです。
3. 現在の状況 (コンビニ業界、F社様の事例)〜出向先で昇進、戻られては困る人財に
出向先の1社であるF社様は、弊社の店舗副店長149名が出向先のF社様直営店舗の店長を目指すプランで合意いただき、2021年4月から出向を開始しました。
2023年の1月現在、9割にあたる134人が店長に昇進しています。出向期間は2年間ですので、2023年3月で満了となりますが、弊社従業員に戻られてしまうとF社様が困るということで、延長や交代要員を希望されています。そこで、こちらからは弊社出向者の更なる上位職への経験機会(店長の上位職であるSVランク)を要請し、現在交渉中です。
その他の出向先企業でも前述の4つの出向先企業選定ポリシーの効果が見られ、当初は予定になかった、出向先企業の本部への管理部門メンバーの出向要請も受けるなど、まさに、プランドハップンスタンスセオリー(Planned Happnetheory)
を目の当たりにしています。
人事部から出向者に対して行ったアンケートでは、出向前よりもモチベーションが高くなっていると回答した出向者が全体の8割です。出向者自身がプラスの意味付けができた、成長したということだと思います。中には転籍を希望する従業員もいますが、その選択が従業員にとって幸せなものであれば止める理由はありません。これらも受け止めて応援する人事でありたいものです。この局面、会社も従業員もそれぞれのベストと思える道を選択していくべきで、人事はその機会を作ります。
あらためて、「雇用を守る、キャリアを開発する」ということは、自社内で従業員を囲ったり甘やかしたりすることではないということなのだと感じています。
相澤 修
アミューズメント業界(海外市場上場)人事部長
SHRMクレデンシャル資格保持者
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