人的資本経営と日本の人事部【後編】 -日本の人事が忘れていること-
2)人事本来の仕事
6月27日にHRAIがSHRMと共同開催したウェビナーでは、「ダイバーシティ・エクイティー・アンド・インクルージョン(DE&I)」をテーマとして議論が行われた。アジア・中東地域の事例では、「DE&I」を実践して行く上で、人事の最初の仕事は「職務記述書-ジョブディスクリプション(JD)」の中でDE&I推進のために何をすべきかを定義づけし、社員が日々の仕事の中で実践できる形で提供することであると明言していた。
そのような対応をしている日本の企業は何社あるだろうか?
人材が流動化すれば、退職した社員の仕事を担う社員がその仕事を的確に行えるよう、仕事の定義を明確に伝えることが求められる。後任の社員に「自分で考えてやれ」というのは、企業の継続性の観点から人事の仕事としては失格である。
企業経営の原点はその企業の使命・理念(Mission, Vision)を実現することであり、そのために経営戦略があり、それを支えるための人事戦略がある。冒頭触れたように二つの戦略が連動することは当然のことである。
しかしその連動を具現化するためには、人事が経営戦略をそれぞれの仕事のレベルまで落とし込み社員の「職務記述書-ジョブディスクリプション(JD)」として定義づけることが必要なのである。
「連動することが重要だ」と言って、あとは社員が自分でやれというのは、人事としての基本的な機能を放棄していると言わざるを得ない。この一番基本の仕事が、日本の人事では忘れられていると言える。
「人的資本経営」の本質は、「伊藤レポート2.0」にあるように「今や企業価値決定因子は有形資産から無形資産に移行した。その無形資産の中核がまぎれもなく人材である。したがって人材の価値を高めれば、無形資産の価値が高まりそれが企業価値を持続的に押し上げる。」ことである。
人事が戦略的な機能を果たすことが求められているのは「企業価値を持続的に押し上げること」が求められているからであり、観念的な戦略論を述べることではない。経営戦略を人事制度の基盤である社員一人一人の「職務・ジョブ」に落とし込み、人財の価値を高める方向性を明示することが求められているのである。過去の日本においては戦後の高度経済成長のおかげで拡大基調にあった多くの企業は、そんな面倒なことをしなくても社員が動機づけられ頑張ってくれて業績も向上して来た。
しかし今日本は普通の状態(経営陣が人材の価値を高め、企業価値を持続的に押し上げる必要がある状態)に戻ったのである。
つまり、人事は本来あるべき人事の仕事をすべき時が来たのである。
秋山 健一郎
一般社団法人 人事資格認定機構
理事・主席講師
株式会社 みのり経営研究所
代表取締役
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