「×ドライではない#2」 いま、アメリカの人事が最も大切にしている事とは。 SHRM 22レポート(ニューオリンズより)2022年6月12日〜15日
SHRM 22レポート(ニューオリンズより)2022年6月12日〜15日
今年2022年のSHRMアニュアルコンフェレンスは、再び大規模参加となり、世界中から1万5千人が会場参加し、2万人がオンラインでの参加となりました。
SHRM CEO(ジョニーテイラー氏)のキーノートスピーチは正に、1万5千人の会場にいる人たちの心に響く内容で、「共感」を実感するものでした。
前回に引き続き、テイラー氏のキーノートスピーチを紹介します。
日本では、昨年に引き続き、今年も多くの日本企業大手が導入を進める「ジョブ型」。そして10年ほど前から本格的に導入が行われている「成果主義」。言い換えると、アメリカ的手法であり、「アメリカ的になる=ドライになる。」と日本では受けて止められていることは否めない事実であります。
しかしながら、今SHRMが世界の人事プロフェッショナルに向けて提唱しているのは、全くドライとは逆の、言うなれば「ウエット」な人事の必要性です。
2019年くらいから、SHRMがキーワードとして提唱しているのは「Empathy エンパシー」職場における共感力です。
誰が、何に共感するのか?筆頭に挙げられるのは、経営者が全従業員に「共感」する事です。「共感」は仕事の環境や状況、キャリアに関することに留まらず、一人一人のライフ(人生)全てに関わることに共感をして、必要な手を差し伸べることであるとも言っています。
紀元前のエジプトの人事簿にも「家族ケア」休暇の記録が残っている。
経営における「共感」とは、従業員が何らかの家族ケアが必要な場合、必要なサポートを会社が提供するべきであるということです。
これは、現代から行われていることではなくて、遠く紀元前に記されたヒエログラフを読み解くと、雇用主が従業員の休暇の記録があり、その中には具体的に、「男性の従業員が家族(妻と娘)の出血期間のため、家族の世話をするために休暇を取得した。」と記されています。
従業員一人一人の人生で起こっている事にも気を配り、パーソナルなケアを会社・経営者が提供する重要性は、現在に求められていることではなく紀元前から当然の事として行われていた事を知って、現在の世界的パンデミック・ニューノーマルの時代において人事は従業員のメンタルケア、家族ケアを含めた人事マネジメントを益々大切にして推進する必要性を実感し、体現していきましょう。
↓人事簿が記されたヒエログラフ
「今日、この大舞台を務められるだろうか」と思っていた。
アメリカではホワイトハウス、そして全米、世界の多くの国々で、要人や沢山の聴衆を前に堂々としたスピーチを行うテイラー氏ですが、今回のスピーチでは、ここで表情と声のトーンが突然変わりました。
前日、この大舞台に立ち、スピーチのリハーサルを行なっている時に、一枚のメモが手渡されたそうです。
「お祖母様、危篤。今夜が山のようです。」テイラー氏は折に触れて、人生の最も大切な存在として紹介している実の祖母が危篤との連絡が入ったのです。100歳を超えるご高齢で、40年以上の長きに渡り小学校の教員を務め上げた方です。1964年公民権法タイトルVIIが制定されるまで、学校においては人事隔離政策が行われていたアメリカでは被差別の存在であり、その環境の中で教育者として教鞭を取られていたわけです。
テイラー氏が人生で最も喜ばせたかった存在として語られたエピソードでは、テイラー氏は元々弁護士でありますが、労働法の企業弁護士から、大手企業のHR のヴァイス・プレジデント(VP:部長職)に昇進した時に、お祖母様に電話をし、喜んでその吉報を伝えたところ「何?なんでリアルジョブからそんな仕事になったの?」と言われたそうです。
人事があまり専門的な職業でないという理解であられたようです。これは今から20年ほど前のアメリカでのお話ですが、アメリカでもHR職の捉え方というのは、今の日本の状況と似通っています。
「今朝、祖母は旅立って行きました。」
大事な祖母の最期に寄り添うこともできず、一体自分は何をしているのだろう?ここにいる意味などないではないか?という気持ちになりました。
しかし、今、ここに自分がいる意義をこの瞬間に実感しています。人事という職業をより高め、より多様な人たちが活躍できる職場を提供する。この為に、皆さんの為に、ここにこうして立っている。ここに自分の使命がある。
涙を堪えながらの人間味に溢れた熱いスピーチに聴衆は正に「共感」を実感しました。
会場レポート
華園ふみ江
次回は、引き続き、SHRM 22オフ・ザ・ステージのハイライトをお届けします。
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