CFOにとって重要なのはCHROと人事部門の専門職化【後編】
4) CFOが今求めるべきは、人事の専門職化
2018年11月世界CFO会議で講演を行った当時、私は日本の大手上場企業50社を訪問している最中でした。
登壇した時はほぼ30社を訪問し、人事担当役員に人事体制について話を聞いていました。講演当日にもコメントしましたが、その30社のうち、CHROという肩書きがある方は3人と10%にとどまっており、人事経験を積み重ねてCHRO となっている人は2人でした。
そして聴衆に聞きました。
あなたの組織にはCHROがいますか?
全聴衆の4分の1ほどの手が上がりました。
また、聴衆の中から、インドの方が手を挙げ「どうして日本にはCHROがそんなに少ないのですか?インドでは沢山いますよ。」質問されました。
この答えは当時も今も明白で、「日本では人事は専門職と認識されていない」ということです。
数年前ある大手上場企業のCFOにファイナンス経験のない方が就任されており、「CFOの役割を果たすのに、全く支障はありません」とある講演会でお話しされていて、外資系グローバル組織にいた私は大変驚きました。
このエピソードを先日ある集まりでしました。それを聞いた企業経営者、役員の方達はとても驚いていらっしゃいました。
そこで、「では、CHROはどうですか?日本の大手企業のCHROは人事の専門家ですか?」と聞いてみました。
当然首が横に振られました。これほどファイナンスと人事では専門性への期待が違うのですね。
そう考えると、残念ながら2018年から2020年の3年間、世界で提唱されているG3マネジメントチーム(CEO-CFO-CHRO)は日本ではあまり普及してこなかったようです。
そして何より人事の専門性の向上がまだまだ重要視されていないのです。
あなたがCFOであれば、それは経営にとって弱点ではないですか?
経営の最終決断をする時に、CEOとあなた(CFO)の隣に、人的資本を司るべき責任者が不在なのは、今最も目に見える経営リスクとなっているのではないでしょうか。
専門職のコンピテンシーはKSA(知識・スキル・能力)の集合体です。
そして組織にいる全ての人財のコンピテンシーの集合体が人的資本(ヒューマン・キャピタル)です。
5) CEO,CFOの隣にはCHROが必要
この講演を行った頃、私とSHRM (the Society of Human Resource Management: https://www.shrm.org)との関係性は始まったばかりでした。
当時SHRMからは日本は戦略国外なので進出は難しいと言われていました。
でも私は世界基準の人事教育がこれからの日本には必要だと確信していたので、そこから2年間粘り強く話し合いを続けてきました。
そして今年1月からSHRMエッセンシャルズプログラムを世界で初めて英語以外の言語化(日本語化)して日本で提供しています。
これは、私が20年に渡って外資系グローバル企業でCFOの役割を果たしてきた中での反省と問題意識から使命と感じて行っている活動であります。
私が勤務した数社のグローバル企業では日本における経営の最終決断はCEOと私で行ってきました。そして順当に毎年の予算を達成し、好成績を維持してきた実績があります。
しかしながら、その20年の最後の3年ほどは実は、自問自答を繰り返していました。
「私たちの経営判断は短期的なゴールを確実に達成し続けるという視点では、正しいと言えるし、最も効率的かつ効果的に違いない。でも、中長期において最も大切な経営戦略である「人財の育成」についてはあまり目を向けていないし、十分議論もできていない。それで本当にいいのだろうか?」
この疑問は日に日に大きくなっていきました。全社的に大切に育てた人財が次々に辞めていった時期とも重なりました。
その後SHRMと出会いました。
特に今私が日本で提供しているSHRMエッセンシャルズプログラムの教材を吟味し、2019年ラスベガスで自ら受講し、SHRMと共同でプログラムを日本語化する過程は、まさにその時の私の自問自答に一つ一つきちんとした答えをくれる道程でもありました。
そして同時に人事とは何か?という基礎知識が欠如した組織のリスクも肌で感じられるようになりました。
経営の核となるのは、ミッション・バリューから導き出されたゴールを達成していくための大きな二つの資本です(ファイナンシャル・キャピタル、そしてヒューマン・キャピタル(人的資本))。
そしてそこには最終意思決定が必須であります。
ミッション・バリューはCEO が司り、「ロマン・パッションでビジネスのストーリーを語れる人。」
ファイナンシャル・キャピタルはCFOが司り、「数字でビジネスのストーリーを語れる人。」
ヒューマン・キャピタルはCHROが司り、「人でビジネスのストーリーを語れる人。」
このように私は定義しています。
全ての専門職には「基礎知識」が必須で、それは体系立てて学ぶのが最も効率的で効果的であると思います。ファイナンス、IT、法律など考えていただけるとイメージしやすいと思います。
「人事」は世界では専門職として位置づけられており、大学で学科として学べる環境があります。また社会人になってからは、SHRMなどの人事プロフェッショナル組織に所属して「人事職業資格」の取得に努めています。
日本ではまだまだ人事は専門職として認識が薄く、またこれまで「人事の仕事」を体系的にかつ専門的に学べる機会はほとんどありませんでした。
私が代表理事を務めています一般社団法人人事資格認定機構(HRAI) では、世界で既に5万人の受講実績のあるSHRMエッセンシャルズプログラム(英語版)を世界で初めて他言語化(日本語化)し、日本で提供しています。
また、受講時に資格テストに合格しますと、「SHRMクレデンシャル資格」がSHRM本体より付与されます。
SHRMエッセンシャルズプログラムは横断的、体系的に人事の基礎を6つのモジュールを元に学習します。
通常講義は丸2日間で行われ、短期集中的に「人事の基礎」の知識と実践方法を習得することが可能です。
これまでの受講生は、現役CHRO、経営者が中心となっており、日本で今このプログラムが必要とされていることを表しています。
6) これからの10年で日本のビジネスに起きること
日本は、HR Techの導入でも遅れをとってきましたが、やっと追いつき今急速に普及しています。
最新のHR Techというツールを導入しても、それを運用、活用していく人事のプロがより必要とされています。また先に述べました、人的資本マネジメント(HCM) とそのツールであるHR Techの潮流は今後後退することはなく、益々ビジネスの主流となっていきます。
日本のビジネスではファイナンスがビジネスパートナーとしての地位を確立し、CFOが広く社会で認知され、今では誰でもCFOという言葉と役割を理解しています。これは直近10年くらいの間に起きた変化です。
10年前までバックオフィスで管理をしている部署から、真のビジネスパートナーへとファイナンスは変貌を遂げました。
今はまだCHROをCFOの様に理解している人は限定的です。そしてこれからの10年はCHROが社会的に認知され、人事がビジネスパートナーとなっていく時代です。
ファイナンスがビジネスパートナーとして認知され役割が確立される道筋も容易ではありませんでした。経営側もファイナンス人財の側にも「チェンジ」を受け入れ、それに対応するための新たな指標が必要になるからです。
ビジネスパートナーとしての役割を果たすためにはウェルラウンデッド(Well-Rounded)なKSA(知識・スキル・能力)が求められます。
人事がビジネスパートナーとなっていくにもこのウェルラウンデッド(Well-Rounded)なKSA(知識・スキル・能力)が求められています。
そして、ファイナンスに世界基準があるように、人事にも世界基準となるものが既に存在しています。
世界基準の人事の知識と実践方法の習得。2021年を元年として、日本に広めていく必要があると確信しています。
グローバルビジネスはますます高度な専門性を追求し、人財にはより専門的KSAが求められています。人事の専門職化、CHROが常に経営のテーブルにつくことがこれからの日本の企業の発展の重要なキーになることは必然です。
「人事哲学」「人事戦略」「人事の数字」はこれからの人事にとって重要な3つの柱であり、組織の強化、発展を確実にサポートすることでしょう。
華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表
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