経営者にこそ求められる人事組織領域の知識

「経営」するということ。

それはすなわち、カネ・モノ(サービスも含む)・情報、時間、知的財産、そして何よりヒトを司ることである。

そして、営みをつなぎ栄えることである。

 大手企業の多くはさまざまな事業を展開し、様々なサービスやモノを作り出しながら「面」の力で市場シェアを広げる努力ができるが、中小企業はそれとは異なる。中小企業は、多くの事業や商品を抱えていない場合も少なくなく、そのいくつかがコケると大打撃を被ることもよくある。

したがって、経営者は、自身の会社のサービス・モノには極めて敏感であると言えよう。彼らは会社規模を維持・拡大できるよう情報を張り巡らせ、小さなブルーオーシャンを見つけ出して戦略を立て、自社のサービスやモノに価値(=利益)をつけ、日進月歩のデジタル時代の中で勝負する。

 このように、中小企業の一連の流れからすると、少なくとも経営者でモノやカネ、ジョウホウ・ジカンに疎い人は、おそらくいまい。中小企業においてこれらに「疎いこと」はすなわち、死を意味するからだ。

しかし、大手企業から中小企業まで組織的側面のコンサルティングに従事してきた15年以上の中で、痛感したことがある ― それは、多くの中小企業経営者は「ヒト」領域の知識が少なすぎることである。経営者は「ヒト」の知識も必須である。

**コラム**

 実際の会社で、当時を鮮明に思い出す顧客がある。

そこは、モノ・カネ・ジョウホウ・時間に関しては決して悪くなく、少ない人数規模の割には素晴らしい売上を上げている会社。

しかし、ヒトや組織に関しては、とんでもなく酷い状態であった。

例えば、パワハラやセクハラは日常茶飯事、評価や採用は鉛筆ナメナメ感覚論、レポートラインもなければ、契約書(人事関係だけでなく取引関係も)もほとんど交わしていない。当然ながら経営理念もなければ、社内の役職数は社員数をも上回る、教育やマニュアルなんてあるわけもなく、退職者続出という、恐ろしいまでに人事領域に頓珍漢な企業があった。

この会社に代表されるように、経営者が人事領域に明るくないために、組織躯体が完全に腐っているのである。

これらが改善されたら、相当飛躍することは間違いなのだが、人事領域に明るい人がいないがために、残念な状況に陥っていたのだ。

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 経営者自身が人事のことをわかっていないなら、人事領域に詳しい人を雇えばいいではないか、という話にもなるだろう。

しかし、財務のプロやテクノロジー、マーケティングのプロはゴマンといても、人事領域、すなわち、採用・教育・配置・評価・人事関連法律、組織戦略などに多岐にわたる業務知識ついて、「全般的に網羅した人材」は極めて少ないのが現実だ。

大企業でさえ、人事領域の中でそれぞれに縦割りになっていることが多いことから、領域全体を隈なく把握している人は極めて少ないし、いたとしてもその会社独自の知識経験に限られる。

 さらに日本の中小企業になると、人事関連と総務関連の両業務を十把一絡げにされ、人数も少なく、給与計算、入退職や異動の手続き関連の業務をしているイメージの方が根強い。まさにデスクワーク中心で機密事項も多く扱う日陰的な部署扱いである。

欧米では人事部は花形部署なのに、残念ながら日本では間違っても華やかで戦略風な匂いは1ミリも感じない。

 つまり、人事領域全般を司ったことのある人やプロがあまりいないのである。また、それだけではない。これまでは人事に精通していることを証明する「資格」もなかった。財務領域なら公認会計士や税理士等、テクノロジー領域なら資格はたくさんあるのに対し、人事関連では、コーチングなどごく限られた資格はあるものの、人事全般知識の証明ができないことも、人事領域のプロが育たない背景としてあるだろう。

 とするならば、経営者は多少なりとも人事のことも理解しておく必要があるのではないだろうか。

なにも給与計算をせよ、という話ではない。事業を拡大していくために、経営者は財務やサービス、情報だけでなく、人を採用し、教育し、配置し、評価し、組織が有効に機能するようマネジメントするという基本的な知識を会得しておいて損はないだろうと言うことである。

あるいは、人事人員に対して、採用・教育・評価・人事関連法律などの知識をインプットする機会を与え、それを経営者の代わりに率先して実行することを促進すべきであろう。コラムとして紹介したように、経営者や担当が人事領域に明るくないがために、さまざまな機会を犠牲にする可能性があるのである。

 米国にはSHRM(Society for Human Resource Management)という資格認定機構があるのをご存知だろうか。

そして、2020年度11月に、SHRMを軸にした日本初の人事組織の認定機構であるHRAI(Human Resource Accreditation Institute)が発足し、資格認定が始まった。

カネ・モノ(サービスも含む)・情報、時間、知的財産という経営要素に加えて、このヒト系を強化が可能なHRAIを利用して、中小企業の人事担当者だけでなく経営者自身も知識を会得することで、より一層事業を継続・発展させていくことを切に願いたい。

丸山 琢真

一般社団法人 人事資格認定機構
監事
株式会社エバーブルー 代表取締役
焚火研究家

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