これらからの人事〜2022年からの10年【5月号】ファイナンス(CFO)〜人事(CHRO)の路 CHROがこれから辿る路

CHROの時流

 人事職のこれからの10年をマクロ的な観点から見通すと、先に述べた日本国内で会計事務従事者は、1995年〜2010年で113万人減少したのと同様の現象が起こることは容易に予測ができます。(3月号より)

現在の人事の仕事において「管理」に重きを置いている多くの人事の職がHRテックの更なる普及において失われるでしょうし、「運用」に重きをおいた人事の職であれば、AIや人材ビジネスの更なる普及で失われていくのは明らかです。一方で3つの人事の役割の「戦略」を見てみれば未開拓であり、先に述べたCHROに今求められている最も重要な役割が「戦略」でもあります。

 しかしながら、ゲートキーパーの役割から経営の戦略を担う役割へのトランスフォーメーションは容易ではありません。CFOもかつてはマネーカウンターと呼ばれていました。つまり車で言えばバックシートに座っていた訳です。そこからいきなり運転席に座席を移したからといって運転のテクニックがつく訳ではありません。

 私の経験をお話しすれば、私はそもそも会計職ではなく、新規事業立ち上げや営業、リゾートマネジメントなどにおいてマネージャー経験を経てキャリアチェンジをしましたので、ファイナンスでスタッフレベルの職を経験したことはありません。米国公認会計士試験受験の為の勉強をしているタイミングでコントローラーの仕事のオファーを受けました。これは時流にたまたまマッチしていてとても幸運であったとしか言いようがありません。

 ただ、その様な幸運が舞い込んだ要因はいくつかありました。

まず、ファイナンスという専門知識世界基準で学んで資格取得をしていたということ。そして多国籍の人財のマネジメント経験と海外勤務経験が豊富であったことなどが挙げられ、そういったことから異例のキャリアをファイナンスという専門職で築けたと言えます。

ファイナンスのキャリアを構築すると同時に、人事の仕事に30年の長きに渡り携わってきたのは、新卒で人材ビジネスに従事し、外資系専門の派遣部門を設立運営していた経験から得た人事の知識と経験によるものです。

ファイナンス部門の責任者として入社をした後、会社側から人事のマネジメントも任されるようになりました。これは一社だけで起きたことではありませんでしたので、翻って考えれば人事を戦略的にみる人材が外資系においても不足していることが背景にあったことが要因でしょう。

 そして、現場でCFOがマネーカウンターから経営戦略を担うポジションにトランスフォームする厳しさも実感しました。

前職では、日本法人設立13年目にファイナンスの責任者として入社しました。面接の段階で、前任者二人については、大手会計事務所と他社の取締役経験者で、会社のカルチャーとビジネスパートナーとしての役割が合わず短期間で退職した旨の簡単な説明がありました。ところが入社6ヶ月目に、外部の会計監査人から、私の前任者は12人いて最短で2週間、一年以上勤続したのは一人で、その人も1年半ほどの勤続期間であったと言われました。12年間で12人もの前任者が次々と辞めていった大変難しいポジションであるという事実を知って流石に恐怖を覚えました。ただ同時にビシネスの現場での実務経験と、米国公認会計士の知識があれば、頑張って行けるに違いないとも考えました。その後私はその企業に10年勤続しました。その理由は経営戦略を担っていたからに他なりません。このグローバル企業では125カ国に拠点がありました。そしてどの国においてもファイナンス部門の責任者は入社後直ぐにターンオーバーを繰り返すことが多く見られました。これはやはり、CEOの右腕として戦略的役割を求められるCFOポジションがどの国のファイナンス専門家にとってもチャレンジングであったことを示しているのではないでしょうか。

私の場合ですが、ファイナンスの知識は米国公認会計士試験に合格するまで徹底して行ったこと。新卒で入社した会社で社会人2年目から部署の責任者としてマネジメントの経験を積んできたこと。新規事業立ち上げと営業の経験があったこと。海外勤務経験があったことが、時流にマッチしていたことが功を奏しました。

 アメリカGartner社の調査報告書(https://www.gartner.com/en/human-resources/role/chro) には、フォーチュン250のCHROは20%しか人事領域以外の職務経験がないとあります。

アメリカではCHROであれば、人事職域のみならず、広くビジネスの経験が必要とされていますが、一方でCHROの要件として人事経験15年とされてもいます。ですので、アメリカでは人事を専門部門としながらも他のビジネス機能の責任も担う経験がCHROにより求められている事である様です。

 一方で日本企業の現状を見てみると、CHROもしくは人事担当取締役には通常、社内で定期的配置転換を経た上で社歴を積んだ人財が就任しています。ですので、人事以外のビジネス機能の経験はほぼ100%に近いという事実があります。

そうなのであれば、今後日本の10年後を見据えた時、現在CHRO職についている方々に人事専門能力を身につける教育を行なっていくことがCEOが求めるCHROを育成する要であると言えます。

 この点から見ると、日本とアメリカの現状は180度逆でありますが、どちらがより先進的であるとか、優れているということではないのです。

アメリカのCHROは人事の専門知識と経験は十分であるが、ビジネスの知識と経験が不足している傾向にあり、日本ではビジネスの知識と経験は豊富である一方で人事の専門知識と経験が不足している傾向があるのが現状です。どちらにも課題があり、課題を克服するための努力が必要なだけです。

 ですから、これからの日本でCHROを確実に根付かせていためには、人事の基礎教育から広めていく必要があります。

私が人事資格認定機構(HRAI)を通じて提唱しているのは人事の基礎教育をまず「経営者、CHROからの受講・資格取得」であり、その根拠はこの様な現代日本の構造的課題に基づいています。


*次月号は来月10日に掲載予定です。

華園ふみ江

一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表

コラムがアップされたらHRAI からメールが届く!メールマガジン会員登録お申し込みはこちら

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!