CFOにとって重要なのはCHROと人事部門の専門職化【前編】
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2018年11月ベトナムで開催された世界CFO会議は、デジタル時代におけるファイナンスの変容をテーマとしており、私は最終日にスピーカー並びにパネリストとして登壇しました。
2021年7月の現在、約2年半前に行なった講演内容と、実際の道のりを検証してみたいと思います。これはかなり面白いのではないかと自分なりに思っています。
第48回世界C F O会議の主テーマ「デジタル時代におけるファイナンスの変容」に沿って、私の講演はテーマを 「Next Digitalization & Values for CFOs-次のデジタル化とCFOにとってのバリュー」としました。
以下、世界CFO会議2018 講演内容より
1) デジタル化の中心は HR Tech
まずC F Oとして「次にできること、そしてもっとできること」とは、組織の更なるデジタル化をリードする役割を維持することであると定義しました。
様々なデジタル化いわゆるX-Techの導入を見てみると、CFOの専門分野であるFinTechそしてマーケティングを司るAdTech, 作業自動化を促進するRoboTechなどはすでに多くの企業が今日(2018年11月)までに、既に大半の組織で導入済みであると思います。
では、次の主要なデジタル化といえば「HR Tech」であると言えるでしょう。
実際に、HR Techのスタートアップへの投資傾向を見てみると、2011年では77件、305ミリオンドルであったのが、5年後の2016年では件数は5倍の402件、投資額は7倍の2215ミリオンドルとなっています。
「HR Tech」は既に導入済みであるとの声も上がるかと思います。しかしながらその機能について注目してみる必要があります。
そこで、過去そして未来のHR Techの機能と発展の変遷を見ていきます。
HR Techは1980年代から導入が進み、HR Techの土代を成しているのが、「記録保管」システムです。
1990年代からシステムに加わったのが人材管理システムで、採用からマネジメント、人材サポートシステム、つまり採用に係る機能です。
1990年代後半から導入されているのはエンゲージメントを高めるためのシステムで、従業員の維持と向上、関係強化も目的としています。
2000年代から仕事の効率を高めるシステムでチーム、ネットワークの支援を行うものです。
2) 2018年から2020年に向けて HR Techはより『人』に注目していく
現在の2018年から2020年に向けてHR Techでこれからますます補強されていくのが、従業員側にとってはマイクロラーニングと言われるお互いにベストプラクティスをシェアし合う機能などであり、雇用者側ではそういった従業員の行動や思考パターンをデータ化して従業員の満足度などを数値化することです。
これはまさにビジネスにおけるキーワードで、より「人―Human」に関わるものです。
これまで多くのCFOが組織におけるデジタル化のプロジェクトにおいてリーダーとしての役割を担ってきたと思います。
そして、次のデジタル化においてはこの「人」がキーワードとなってきます。
HR Techの機能の変遷は、人事の役割の変化の歴史と重なります。
従来どこの国でも人事の主要な役割は「管理」でした。そこから採用を中心とした「運用」の役割の重要性が注目を浴び、今そしてこれからは「戦略」的役割が求められているのです。
3) CFOの次なる価値とは?
「人」をキーワードとした経営とは、人的資本マネジメント(HCM)です。
人的資本マネジメント(HCM)とは、人材マネジメントとファイナンス分析を合わせたものであるといえます。
それでは、人的資本マネジメント(HCM)においてCFOが果たすべき、最も重要な役割とは何でしょうか?
それは、人材マネジメントとファイナンシャル分析を組合せ最適化することです。
そして、人的資本マネジメント(HCM)によって、会社のバリューと競争力を強化する、これがC FOに課された次の課題であり、それを実行することがC F Oの次なる価値創造となります。
- 具体的には、H Rとファイナンスのデータ分析を結合し、経営に生かすこと。
- そして、経営幹部の中でもC H R Oを常に隣に置くことです。
正に、G3経営チームと言われる(CEO―CFO―CHRO)が経営の中枢を担い、経営の最終判断を行っていくことが重要です。
これは、未来に向けて続く経営の長い道のりです。今日できることから、それがG3経営チームを成功させる秘密のそして唯一のシークレットです。
2018 年11月の講演から2021年7月現在までの軌跡
1) 人的資本マネジメントに係る情報開示の潮流
余談ですが、当時の講演のテーマを見ても分かる通り、当時はD X(デジタルトランスフォーメーション)という言葉はまだあまり使われていなかったようですね。
しかしながら、人的資本マネジメント(HCM)についての重要性については世界で十分語られていました。そして、2018年11月から今日においてはより世界で重要視され人的資本マネジメントの具現化が求められています。
その傾向は投資家を中心に顕著に見られ、SEC(米国証券取引委員会)が2020年8月に人的資本に関する情報開示要件を追加し、それに先んじて2018年12月にはISO030414が公開され人的資本の情報開示における国際規格も制定されました。
2) HR Techへの投資においても『人的資本』に注目している
HR Techの市場については、2018年の予測通り、2020年までの3年間で次のような結果となりました。
UNLEASH( https://www.unleashgroup.io/2021/01/15/usd-5-billion-hr-tech-vc-floods-market-in-2020/) によると2020年1年間は、パンデミックであるにもかかわらず、HR Techへの投資額は5,000ミリオンドルに上り、過去10年間で2番目に高い金額となりました。
また投資家の注目はHR Techの中でも人材獲得(採用)から人的資本マネジメント(HCM)へとシフトしています。
Tracxn (https://tracxn.com/d/emerging-startups/top-hrtech-startups-2021) の2021年3月4日付の記事によると、HR Techスタートアップは21,000社以上あるとされ、総投資額は51,500ミリオンドルで51,000社以上となっており、スタートアップの社数が41%に及んでいます。
また、総投資額の半分が2018年から2020年の3年間で投入されており、HR Techは投資家にとって最もアクティブなセクターの一つであるともなっています。
3) 2020年パンデミックの影響
UNLEASH (https://www.unleashgroup.io/2021/01/15/usd-5-billion-hr-tech-vc-floods-market-in-2020/)
投資家のHR Techにおける投資行動も2020年に大きくチェンジしました。
HR Techをリードするカテゴリーはコラボレーション&コミュニケーション、ラーニング、ウェルネスとなりました。
ジョブボードなども依然強いとはいえ、過去3年の投資額と比べて、大幅に減少しました。
2020年にはパンデミックにおけるリモートワーク環境下での雇用者のリーダーシップ、マネジメント、コミュニケーション、コラボレーションの能力は十分に試されました。
また、雇用者が従業員の声に耳を傾け、迅速にまた同情心を持って応える能力についても試されました。
こういったことからHRと投資家はコラボレーションとコミュニケーションの新しいモデルを探しているのです。
そして、CEOのプライオリティーリストのトップにウェルネス(ファイナンシャル、メンタル、職場などのウェルネス)が掲げられているのはおそらく史上初めてのことでしょう。
華園ふみ江
一般社団法人 人事資格認定機構
代表理事
米国公認会計士
ASTAR LLP 代表
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